関西IVR報告 ~久しぶりの充実したIVR Dayに大満足~

2011.03.03

IVRコンサルタンツ 林 信成

 

平成23年2月26日にメルパルク京都にて開催された第29回日本IVR学会関西地方会に参加した。実は中部IVR も同じ日の開催だったので少し迷ったのだが、自宅から圧倒的に近く、わずか230円で行ける関西を優先してしまった。中部の関係者の皆様、申し訳ありませ ん。

研究会には200名以上の参加者があり、朝9時半から夕方5時半まで、みっちり予定がつまっていた。特別講演が2題 (1題はランチョン)と一般演題が35題というシンプルな構成であったが、それだけで時間はぎりぎりである。討論は比較的活発で頻繁に予定時間を超過した のだが、プログラムが巧みに組まれていて全体としては許容範囲内の遅れで収まった。討論の内容は一部を除いてレベルが高く、いつもながら関西IVRの層の 厚さを実感した。

IVR関連の会合の報告を書くのは昨年のCIRSE以来だから、随分と久しぶりになる。ただこの後を考えると、3月 にSIRがあり、4月に日医放総会(これは報告しないが)、5月にIVR学会総会、6月には関西IVRと中部IVR、7月に関東IVRがある。この日程が おかしいと思う者は私だけではないだろう。もう少し何とかバランスを取ってもらいたいものである。いつものように、興味深かった演題を中心に報告する。

今回の地方会で一番面白かったのは、神戸市民病院脳神経外科坂井信幸先生の「新しい時代を迎えた脳動脈瘤塞栓術、急 性期脳動脈再開通療法」と題された特別講演であった。前者は、塞栓コイルの逸脱を防ぐためのステントであるEnterprise VRDの話をメインにしながらも、脳動脈瘤治療の全般的な現況が概観され、非常にわかりやすくて啓蒙的な講演であった。このステントの登場によって、脳動 脈瘤の血管内治療はより安全となり、適応範囲が大きく広がった。私自身はSIRやCIRSEでかなり以前から知ってはいたが、この種の治療を自分で手がけ ていないだけに、その素晴らしさを十分には認識できていなかったのを恥ずかしく思うばかりである。もちろん、誰もが簡単に手を出せる領域ではないし、そう すべきでないことも明白だが、このデバイスが患者の安全性を高めることに大きく寄与することは間違いない。さらには有用性だけではなく、通常の透視では問 題なく見えていたのにコーンビームCTで屈曲が明らかになった例や、後に他の検査のために抗血小板剤が休薬された結果、ステントが閉塞して脳梗塞を来した 無念な例なども呈示された。CASの講演と同様、坂井先生はいつも重篤な合併症例を具体的に例示してくださるのでありがたい。

後半は血栓除去に用いられるMerciの話が主体であったが、これに関しても前半と同様、我が国における急性脳梗塞 の治療全般が概観され、教育的価値の高い講演であった。前週に放射線診療安全向上(旧ヒヤリ・ハット)研究会で国立循環器病センターの福田先生のご講演を 拝聴し、大阪における急性期脳卒中に対する救急ネットワークの話を聞いていたのでよけいに納得した。脳動脈瘤は未破裂症例の増加で待機的治療の選択肢が大 きな問題だが、急性脳梗塞は時間との戦いなので救急体制の確立が極めて重要である。適切な治療が可能な施設に数時間以内に辿り着けるかどうかが、長期にわ たって患者の予後を大きく左右するのだから。講演の最後には、オフラベル(適応外)使用についての考え方やPMDAおよびデバイスラグの問題にも少し触れ られた。現状に問題がいっぱいあるのは確かだが、以前と比べれば遙かに改善しているし、批判するだけでは何も進まない。協力もし、擁護もしてあげることの 必要性を強調されたのが印象的であった。私も全く同感である。
もう一つの特別講演は、奈良医大の吉川先生による「最近の新しいデバイスに関する話題提供」であった。コイル、Amplatzer Vascular Plug、末梢動脈用ステント、ステントグラフトなどについて、まさに最新の情報が提供された。SIRとCIRSEに皆勤している私でも、よく知らない・ わかっていなかった情報が溢れており、またそれらが、単に製品を紹介するだけでなく、実際の多彩な臨床例や治療戦略および治療成績、薬事承認の状況などを 絡めながらわかりやすく語られた。その絡まり方が見事で、説得力に満ちていた。坂井先生の講演と同様に、薬事承認における困難な点を認めながらも、それを どのように克服しようとしているのか、そしてどのように少しずつでも進んでいるのかが紹介された。彼らの努力には頭が下がるばかりである。最後には他の血 管内治療関連学会の動向や放射線科IVR医の地位保全?の取り組みについても触れられた。これについては書くと長くなるので省略するが、とにかくきちんと した「戦略」を持って行動しないと、放射線科医の負けは明白である。勝たなくてもよいが、「負けない」戦略を、一刻も早く立案して行動に移さねばならな い。

一般演題も楽しいものが多かった。最初のセッションは基礎実験だったが、これだけでも5題あった。造影剤注入時のマ イクロカテーテル先端の位置移動の実験は、CTAやコーンビームCTが普及した現在ではとても重要な情報である。そういうことがわからない元教授がしょっ ぱなから高圧的態度で批判的発言をしたのには多くの聴衆が辟易していた。残念でならない。造影剤・リピオドール・シスプラチンにトロンビンをOn/Off して腫瘍への薬剤移行を比較し、その効果を確かめた実験も面白かった。トロンビンが内皮細胞に作用して血管透過性を高めることが理由だそうである。 NBCA・リピオドールの撹拌方法に関する基礎実験では、温度や流れによって、また繰り返し注入によって、カテーテルやハブへの付着度合いが変わることが 示された。現場で一番問題なのは、やはり繰り返し使うことだろう。こびりついたNBCAの写真を見せられるとドキッとする。NBCA・リピオドール・エタ ノール混和物に関する基礎実験も面白かった。大きな固まりになってリボン状に出てくる。ただin vitro実験なのに作業者の手指が 撮像されていたのはいただけなかった。座長が厳しく注意されたが、当然だろう。BRTOにおける硬化剤と造影剤の混合比に関する基礎実験の報告もあった。 これもまた極めて興味深い報告だが、欧米で流行のFoamの是非や一晩留置の利点・欠点のバランスなど、まだまだ未解決の疑問が多いことを実感する。可能 なら臨床試験を組んでほしい領域ではあるが、なかなか具体的には難しいことも確かだろう。

末梢動脈ステントの症例報告が4題あった。いずれも適応や治療の実際などについて、施設によって術者によって、考え 方や戦略が必ずしも一致しないのだが、それらに対して感情的でも攻撃的でもない正当で穏やかな議論が展開されていたと思う。詳細は画像なしでは伝えること ができないが、とても安心して聞いてられた。そして経験の少ない施設は豊富な施設にもっと積極的に相談すべきだと思うし、招聘して手伝ってもらったり患者 を紹介したりするのも選択肢だと思う。

大動脈ステントグラフトの演題は3題だったが、いずれも楽しかった。「感染性腹部大動脈瘤への姑息的なステントグラ フト挿入」というのは、演題名だけ見ると適応に疑問を感じるかもしれないが、胆嚢炎の術後に発症したものであり、破裂を防ぐための時間稼ぎとしてステント グラフトを挿入して強力な抗生剤治療を行い、後に根治手術をしたというものであった。つまりステントグラフトを手術へのブリッジングに使ったのである。手 術時には膿汁が溢れ出したようであるし、外科手術にしてもかなりハイリスクだから、いつもこのように上手くいくとは限らない。しかしながら最近は、手術不 能症例での感染性大動脈瘤へのステントグラフト挿入の症例報告を数ヶ月に一度は必ず目にする。抗生剤やデバイスの進歩などが、このような治療を可能にした のであろう。また放射線科と血管外科の連携が良いことがキーポイントに思う。「腹部分枝に及ぶ慢性B型解離を、外科手術とのハイブリッドで治療した」との 演題も同様である。破裂胸部大動脈瘤へのGore TAG挿入の報告も興味深かった。7例のうち、すでにショック状態にあった1例を除いて全例を救命し得ていた。対麻痺が1例あったが、腹部にステントグラ フト挿入の既往があり、なおかつShaggy Aortaの症例だったので仕方なかろう。緊急症例であったため予防的なスパイナルドレナージまでできなかったのが残念である。

腫瘍関係の演題は、驚くほど少なかった。欧米とは逆の傾向であるが、背景の違いがあるから仕方ないだろう。昔の関西 IVRを思うと隔世の感がある。ミリプラチンの発表が急増すると思ったのだが、1題だけであり、成績も期待を下回っていた。画期的な薬剤ではあるのだが、 どのような症例にどのような使い方をすべきなのか、どの施設もまだ迷っているようである。

消化管関連では、上腸間膜動脈血栓、胆道出血、十二指腸憩室出血に対する塞栓後の穿孔、腸間膜損傷といった症例報告 があり、いずれも活発な討論が展開された。様々な考え方があり、現場の状況が異なるのだから、どちらかの意見が絶対に正しいということは少ないのだが、そ のような多様な考え方や治療戦略が症例ごとに討論される過程を聞くこと自体が、特に若いIVR医には貴重であろう。

静脈ではHITで一次留置型下大静脈フィルター抜去が困難になった症例が呈示された。回収可能型フィルターがこれだ け多く市販されている現在、一次留置型の適応は極めて限られるだろう。合併症の報告も多いし、フロアからも否定的な発言が相次いだ。BRTOについては、 PSEの併用や分割治療、ダブルバルーンの利用や体位の工夫、術前の詳細な三次元画像診断など、いかに薬剤を少なくして効果を高めるか、多くの施設が懸命 に努力されているのがよくわかった。

なお非血管分野の発表が1題も無かった。これは少し驚きであり残念である。生検やドレナージはともかく、RFAも椎 体形成術も一休みのようである。次回に期待したいと思う。いずれにせよ、IVRでおなかいっぱいの濃密な一日を過ごすことができた。当番された滋賀医科大 学放射線科の皆さんをはじめ、すべての参加者に深く感謝の意を表したい。