CIRSE 2016報告 ~エビデンスの功罪、RCTへの逆風~

2016.09.26

林 信成(IVRコンサルタンツ) 

 2016年9月10日からバルセロナで開催されたCIRSE2016に参加した。バルセロナは2004年、2013年についで3回目なので、またかという気持ちもあったのだが、会場内の優れた動線、交通の便、観光地も含めた周囲の環境などを考えると、バルセロナなら、今後も数年ごとに開催されるとしても許されるのかもしれない。物価はまあまあリーズナブルだし治安もさほど悪くない(サッカー場でiPhoneをすられた方はおられた)、地下鉄の駅は近いし、周囲に大きなホテルもいくつかある。隣は博物館だし5分ほど歩けばビーチにも出られる。さらには向かい側に、巨大なショッピングモールまである。日が暮れるのは夜8時頃(そのかわり朝7時でもまだ暗い)なので、学会が終わる6時頃でもまだ、日本の午後3時くらいの感覚である。
 参加者も変わらず多かった。今回はついに7,000人の大台を超えたようである。もはや小さな都市での開催は二度とできない規模になってしまった。来年はコペンハーゲンに決まっているが、その後はどうもリスボンで、その次はまたバルセロナらしい(未確定情報)。全体の参加者が増えている割に、日本人の参加者は例年より少し少なかったように思う。少なくとも会場で出会う機会は例年より少なかった。これは機器展示場を中心にほとんどの会場がコンパクトに集約されているため、通路ですれ違う機会が少ないこともあったろう。さらには画期的な新知見に乏しくて目玉のセッションがなかったことが大きかったのかもしれない。色々と仕方なかったのだろうが、門脈圧亢進症学会が重なったことや秋季大会が直後にあったのは残念である。以下、聴講できたセッションを中心に報告する。いつもながら聞き間違いその他ミスも多いと思いますが、お許し下さい。ご意見があれば遠慮なく編集部や私にご連絡ください。

会場入口
会場向かいのショッピングセンター

会場はビーチの近く
会場近くのビーチ

骨軟部
 今回のCIRSEで最大のトピックは、何と言っても日本から江戸川病院の奥野祐次先生が「炎症性関節疾患に対する塞栓術」というテーマで講演されたことだろう。毎日参加者に配布されるIR Congress Newsでも1ページすべてを使って取り上げられていた。Radioembolizationのセッションと平行していたためにそれほど多くの聴衆ではなかったが、数百人がかなりの驚きを持って聞いていたと思う。セッションが終わってからも彼の周りには座長をはじめ多くの人たちが長時間集まっており、彼を質問攻めにしていたようである。この方法は日本発の画期的な治療法だし、チェナムという抗生剤を塞栓剤として慢性炎症性疾患に使うという斬新なアイデアである。有害事象のリスクは極めて低いし、腱炎、腱付着部炎、いわゆるテニス肘、五十肩など対象となりうる患者は膨大な数にのぼる。座長が「骨壊死を1例も起こしていないのはラッキーだ」とコメントしたのは、チェナムに一時的な塞栓効果しかないのを誤解していたためだろう。会場からも、「ゼラチンスポンジやビーズはどうなのだ?」といった質問があったが、これらの塞栓剤は大きすぎるし、持続時間が長すぎて効かないか有害だろう。奥野先生もそれで虚血障害が生じた1例を提示されていた。問題はやはり、本治療に関してレベルの高い多施設共同の前向き研究がまだ出ていないことにつきる。これが一刻も早く、できるだけ高い質で行われるのを心待ちにしている。痛みという主観的な指標がエンドポイントなので、正論からいえばシャム手技とのランダム化比較試験が必要なのだが、日本でこれを行うことはほぼ不可能である。まず前向き試験の結果が出て、これが多施設で追試されれば、それでかなり十分だと思う。それだけでは保険適応は無理だろうが、逆に保険適応とするにはコストやチェナムの適応拡大などあまりに大きな障壁がある。骨盤うっ血症候群だってランダム化比較試験が行われることはおそらくないだろうし、それに準じればよいと私は考えている。講演によれば、五十肩では70%くらいの患者に有効で、その後も経時的に寛解例が増えていくようだが、この疾患は放っておいても1年余りで自然に治る例が多いので、下手にランダム化比較試験をやるとかえって失敗しかねない。
 セメント注入による椎体形成術は、シャム手技と比較したVAPOUR試験の成績が8月にLancetに発表され、2009年以来続いていた「科学的には、有効性が否定された治療手技」という汚名がついにすすがれた。関係者にとってはさぞ喜ばしい成果だろうが、セッションでこれらの詳細を知るとちょっと複雑なものがある。まず同じように名誉挽回を期して計画されたVERTOS4だが、オランダの4施設から180人の患者が登録された。適格条件はVASスコア5以上で発症から6週間以内、MRIで浮腫が見られ、骨粗しょう症のある患者である。リクルートされた1,280人の患者から91人が椎体形成術に、89人がシャム手技(局所麻酔はなし)に割り付けられている。12ヶ月後のVASスコアは両群ともに有意に低下し、椎体形成術群の方が優れていたものの有意差は無かった。ただ椎体の高さはシャム群で有意に低下が見られ、特に3椎体を治療した群で目立った。問題視されていた新規の骨折については、両群間で有意差を認めなかった(これについては、完全に風評被害と決着がついた感がある)。またサブ解析では、12ヶ月後にVASスコアが5以上であったのは、シャム手技の方が多かった(24% vs 44%)。
 一方、VAPOUR試験にはオーストラリアの4施設から120人の患者が登録された。適応はIVR医が決定しており、75%の患者は単一施設からの登録であった。さらにこの試験でのシャム手技では、針は皮下組織にまでしか入れていない。VERTOS4では両群ともに80%以上の患者が「自分は非シャム群に割り付けられたに違いない」と答えていたのとは、ちょっと状況が異なるのではないかと思う。14ヶ月後にVASスコアが4以下になっていたのは、治療群で有意に高かった(44% vs 21%)。サブ解析では、下部胸椎や上部腰椎で、また発症から3週間以内の症例で、特に成績がよいことがわかったという。私はこの治療法について、確かに効く人はいると思うが、やはり適応が問題なのだと思っている。保存的治療でも有意によくはなるのだから。結局は「高度の痛み、発症後1~3週間、下部胸椎から上部腰椎」という症例に適応が集約されるのがリーズナブルなのかもしれない。欧米でも、保険償還に制限はあったものの、まったくされていないわけではなかったようだ。
 なおこの領域ではKIVAやSPINE JACK、VELELPLASTY、OSSEOFIX、Shield Kyphoplastyなど多数の新たなデバイスが開発されているが、本当に有用なものがあるのかどうかは不明である。
 その他、転移性骨腫瘍やAneurysmal bone cyst、Giant cell tumorなどに対する術前動脈塞栓術、緩和のためのセメント注入やRFAを併用した塞栓術についても講演があった。放射線照射を併用する症例も少なくないので、その順序などについても解説されていた。

末梢動脈 
 他との重なりで一部しか聞けていないが、大きな変化はなさそうだった。薬剤コーテッドバルーンは相変わらず、初期開存率でこそ素晴らしい成績を示しているが、TLR率や歩行可能距離といったよりハードなエンドポイントでは多くは有意差を示せていない。ほとんどの製品がまだ高価なことや通常/高耐圧バルーンとの併用が必要なこともあって、さほど普及しているようには思えない。会場でのアンケート投票でも成績に比べて評価がイマイチだったので、やはり臨床の現場とは乖離があるようだ。1本ですべて終われる、薬剤コーティングはおまけみたいなバルーンが主流にならないと、大きなシェアは望みにくいと思われる。膝窩部以下では開存性に関しても従来型バルーンと有意差が出せていないし、ステントとの比較では1年後こそ匹敵しているが3年後はボロ負けである。なお生体吸収性ステントも、一時はもてはやされていたが、やはり長期成績ではまだよいデータが出ていない。永久に何も残さないという理想は、「残っているものがないと難しい」ことの裏返しである。
 Lithoplastyという新しい概念のPTAバルーンが出ていた。衝撃波を与えることで、動脈壁の石灰化を破壊するらしい。例によって初期成績は素晴らしい。でもCryoplastyの頃からそういうことには慣れているので、多施設共同前向き研究で、少しハードなエンドポイントで中期的な成績が出るまで、装置ごと必要でいかにも高そうなこのデバイスはまだ「待ち」だろう。なお最近は抗体でコーテイングしたステントも開発されているようだが、詳細はまだ不明である。
 パクリタキセルでコーティングしたEluviaステントの有効性を検証したMAJESTIC試験は、24ヶ月でも無TLR率が91.3%と好調だが、これはパイロット試験のようなものなので、あくまでももう少し待ったほうがよいだろう。ただ破損例が0%だったというのは興味深い。
 Zilver PTXについては、大腿膝窩動脈を対象にした日本での全例市販後調査の3年成績を奈良医大の吉川先生が発表された。平均年齢74±9歳の905人を対象に、糖尿病、腎不全、全長、ステント内狭窄などの患者背景がいずれも市販前の臨床試験より悪かったにもかかわらず、3年開存率84%と良好な成績であった。日本の技術の高さや臨床ケアレベルの素晴らしさが伺われる。
 透析関連も会場がほぼ満員だったのには驚いた。相変わらず欧州では、この分野で放射線科医が高いシェアを維持しているものと思われる。グラフトや薬剤コーテッドバルーンの有用性が強調されていたが、確かに開存率は高いものの、コストや長期的な「臨床的」有用性を考えてか、普及はまだそれほどではなさそうだ。中心静脈についても、再発は少なくないし、この分野ではグラフトは使いづらい。

前立腺動脈塞栓術(PAE)
 今回のCIRSEが最も力を入れていたのはこの治療法かもしれない。学会を上げて応援している雰囲気で、開発者であるDr.CarnevaleにInnovation 関連のAwardを授与し、特別のセッションを設けたうえ、4日目には欧州泌尿器科学会の重鎮たちを招いたセッションもあった。ここではLUTS全般について、特に「治療すべきは前立腺に限らず膀胱でもあること」、経尿道的手術(TURP)の現況、HoLEPやレーザー、ロボット手術やUroliftなどについても紹介された。彼ら泌尿器科医も認めるように、逆行性射精は約80%の患者に生じている。結局は80~100mLを超えるような大きな症例、麻酔に耐えられない症例や複数の抗凝固剤を服用している症例、逆行性射精が生じるのを避けたい患者などが対象となるだろうとの意見であった。順当なところである。現在英国では、UK-ROPEというレジストリー試験が進行中で、201人がPAEを、87人が手術(74人がTURP、3人がHoLEP)を受けて経過観察中とのことであった。
 なお中国からPAEとTURPを比較したランダム化比較試験の成績がすでに報告されており、PAEに否定的な結論が出ているが、予想通りこの試験に対する攻撃もされていた(急性尿閉など1例も経験していないなど)。「Dr.Carnevaleらが提唱するPErFecTED法での比較試験では同等だった」との成績が強調されていたが、これはきちんとしたランダム化比較試験ではないし、「この方法の技術的成功率は高くない」という報告もすでにある。
 なお合併症については、膀胱虚血で手術になった症例があるようだが、頻度は高くない。また再発のリスクは比較的高いようだが、「再治療例でも8割は臨床的に有効」としていた。

Interventional Oncology
 セッションとしてはかなりの力が入れられいて、いくつも関連セッションがあった。ただ総論的な話が多く、具体的な新しい知見には乏しかった。EBMの功罪や必要性、治療技術や患者背景の多様性、デバイスの急速な進歩、評価方法の標準化や併用療法など、臨床試験の問題点を指摘する演者がかなり多かったように思う。確かに「小規模で、エキスパートの術者によって達成された成績」を一般臨床に外挿することの問題点は少なくないし、どうしても利益相反や「勝ちたい気持ち」が交絡する。最近、NEJMにPragmatic Trialsという記事が掲載され、臨床試験の問題点を列挙するとともに、リアルワールドである超大規模なレジストリ試験の利点が述べられている。
 肝細胞癌ではスローンケタリングがんセンターから相変わらず、「抗がん剤なしのBland Embolizationでも成績は遜色ない」という主張が彼らのデータとともに展開され、小さな塞栓剤によるMicroembolizationという概念まで提唱されたが、もちろん胆管系へのダメージの懸念から、すんなり容認できるものではなかろう。確かに保存的治療と比べてのTACEの優位性を証明したランダム化比較試験でも抗がん剤の利点は証明されていないのだが、今さらどこもきちんとした追試はしないだろう。もちろん高度進行例やハイリスク症例など一部の症例に限っての適応は今まで通り残る。従来型TACEとDEB-TACEの関連でもそれほど新しい話題はなかったが、従来型TACEについての専門家会議のコンセンサスがCVIRに発表されたことで、本法の標準化が正しく進めばよいと願うばかりである。
 今回BTG社のブースで一番宣伝されていたのはLUMIという視認可能なビーズである。米国ではすでに6ヶ月前に市販が始まり、欧州でもまもなく入手可能になるようだ。おまけで見えるのなら、もちろんその方が良いに決まっている。ただそうすることによって失うものはないのか(物性や薬剤除放性の変化)、長期的な成績が出ていない段階ではよくわからない。塞栓後のCT像を見ると、あまりベッタリとした染まりはないように思う。こういうのがビーズの溜まり方なのかという思いで見ていた。
 肝転移では欧州腫瘍学会の重鎮たちも招いて大きなセッションが持たれたのだが、お互い遠慮がちに基本的な事柄を述べるのみで、新しい知見は何もなかった。ガイドラインにIVRがきちんと掲載されるまでにはまだかなりの時間がかかるだろう。
 ゲルベ社のスポンサードシンポジウムでは、Dr.SoulenがDEB-TACEのことを「合併症が多くて成績は従来型TACEと変わらない」とこき下ろしていた。またBCLC分類についても「米国のTACEのほとんどはBCLC分類だとStage C」と言い放ち、香港の分類については評価しているようだった。彼自身はそんなにデータを出しているわけではないし、転移にまで従来型TACEをしている変わったIVR医なので、私はSIRに参加していた頃から個人的にはあまり良い印象を持っていない。大須賀先生は「アジアにおける従来型TACE」というテーマで、疫学、TACEを受ける頻度の高さ、日韓共同研究、TACEの歴史やCBCTを含めた最近の進歩について、とてもわかりやすくてレベルの高い講演をされた。最後にDr.BarreがWater-in-oilの重要性を中心に、20年前にRadiologyに報告された自らの論文を引き合いに出しながら話された。この会場はほぼ満員で、TACEに対する関心の高さがまだ保たれていることを実感するとともに、DEB-TACEに不満を持つIVR医が多いことの裏返しかもしれないと思った。
  
Radioembolization
 8月の末にEndovascular todayで「TherasphereによるRadioembolizationがランダム化比較試験で従来型TACEに勝った」と報じられていたので楽しみにしていたが、Dr.Salemは来ていなかったようだし、そのことについてはブースで誰も知らなかった。この件については帰国後に顛末がわかったのだが、「予定登録数を124例としてランダム化比較試験を始めたが、45例までしか登録が進まず、そこで打ち切ってデータを解析したところ、進行までの期間が有意に優れていた」というものであった。もちろんこんなものは、到底レベル1エビデンスとは言えない。
 SIRTEXについては昨年報告したとおりである。一次エンドポイントである無病生存率では有意差を出せなかったのに(10.2ヶ月と10.7ヶ月)、二次エンドポイントの1つである肝臓でのPFSでだけは有意差が出たのを、相変わらずレベル1エビデンスと強弁して大々的な宣伝を続けている(SIRFLOX試験)。従来型TACEの有害事象が多いことに目をつけてQOLを比較したランダム化比較試験も行われていたのだが、結果は有意差なしであった。ここでも宣伝で使われるのは、「TAEは平均3.4回の施行回数だけど、Radioembolizationは1回だけ」というものであった。それでもまあ従来型TACEで限界があるのは確かだし、売り上げも急成長しているようで、ユーザーのネットワークも構築しているとのことであった。繰り返すが、現時点で第三相ランダム化比較試験で有意差が出たものはいまだに1つもない。また「有意差がなかったということは、非劣性を意味するものではない」。ただいずれの製剤も、膨大な数のランダム化比較試験が生存率をエンドポイントに進行中なので、いつどんなデータが出てしまうか心配である。
 QuirenSphereという新しい製剤が出ていた。これはHolmium-166が核種で、ベータ線だけでなくガンマ線も出す常磁性体だということで、SPECTやMRIによる評価が容易になるとのことであった。ただガンマ線を出すので、日本での認可はいっそうハードルが高くなるかもしれない。初期成績の報告では38人が対象で、3ヶ月後のPRは12%、SDは47%とのことであった。MAAシンチで肺肝シャントがある症例でも使える利点があるようだが、詳細はわからなかった。

記念講演
 Grunzig Lectureは、会長職はじめ多くの大役を務めてきたDr.Lammerだった。趣味と思われるクルーザーを運転する姿を見せながら、IVRの歴史を大海原での航海にたとえて、末梢血管IVRの歴史についてコンパクトに語られた。どちらも「良いこともあれば予期せぬ悪いこともある」という主旨である。素晴らしい進歩があった一方で、初期成績が素晴らしかったのに長期成績ではボロボロだった例(SIROCCO試験など)、開存率で優っていてもハードなエンドポイントでは有意差を示さなかった例(薬剤コーテッドバルーン)を出して、「こんなこともあるさ」という感じだった。でも完全に消え去ったCryoplastyや血管内照射など、彼ら大物があまりにも安易に、発売当初に褒め称えたのが市場を狂わせたのではないか?という思いが私には消えない。ましてやDCBでは、一次エンドポイントで有意差がなかったのにサブ解析で「進行例ではDCビーズが有意に優れている」というスライドを彼は何度も講演で述べていた。少なくとも講演料という明確な利益相反はあったろうし、主任研究者としての謝礼もあっただろう。彼らの罪はそれなりに重いのではないかと私は思っている。
 Rosch記念講演はDr.Baereで、画像診断医であることや腫瘍医であることとのバランスの必要性、競合他科医とのターフ、生存期間がエンドポイントであることの問題点、Oligometa症例への対応、最新の免疫療法とのコラボなどについて語られたが、最も強調されたのは「欧州腫瘍学会への参加」であった。確かにその通りで、日本でもIVR医は他科医主催の学会・研究会にもっと参加しなければ話にならない。しかしながら、放射線科関連だけでもおびただしい数の学会・研究会が存在し、今も増え続けていることが問題の解決をさらに難しくしている。特に診断医は、たいていそれで満足できてしまうのだから。

ポスターセッション
 PosterのほとんどはE-posterとして専用端末で閲覧されるだけだが(スライドをメールで自分宛てに送れる)、一部の優れたPosterは会場の一角で毎日、大型ディスプレイを使って口演発表されていた(Posters on Stage)。他のセッションとの重なりでごく一部しか聞けなかったが、なかなか面白いのが多かったので、聞いたのをいくつか紹介する。
 静脈性EDに対する漏出静脈塞栓療法の報告があった。私がサンディエゴのシャープ記念病院で初めて見て25年くらい前に福井で施行したのがおそらく日本では初めての症例だが、手技が煩雑なことや再発が多いことから後が続かず、世界的にもずっと下火だった。デバイスの能力が向上し、液体塞栓剤を併用することの効果か、かなりの好成績を報告していたが、やはり6ヶ月後からは徐々に有効性が落ちていくようである。再介入して再度治療しえた症例もあるようだが、相手が静脈だけに根治はなかなか難しそうである。
 韓国から良性腺腫に対するアブレーション治療の報告があった。座長が「最近は甲状腺腫瘍関連の論文が韓国からばかり出るのはどうして?」と聞いていた。韓国では安価なスクリーニング検診が国家的に始まったのをよく知らないのだろう。甲状腺がんの患者数はこれによって爆発的に増加したが、死亡率は全く変わらない。1999年に開始されて2000年から患者が急増しているので、もちろん福島の原発事故とは無関係である。
 病的多汗症に対する交感神経アブレーションという報告にはびっくりした。超音波ガイド下で背部から胸椎Th2-4の両側を穿刺し、局所麻酔についでRFAを施行している。108人に139例施行し、76%くらいの臨床的成功率だそうであるが、患者の満足度は50%ちょっとであった。そこまで困っている患者がそんなにいるのか、合併症は大丈夫なのか、ちょっと心配であった。
 なお松山市民病院の平田先生が、「CTガイド下穿刺用アプリの開発」でMagna Cum Laudeを受賞されていた。今年の穿刺ドレナージ研究会で初めて聞いて感動したが、こういうちょっと違ったアプローチの演題に最高賞を与えてくれたCIRSEの委員会に心から敬服する。金沢大学の南先生も、多血性肝細胞癌のドレナージ静脈に関する演題でCum Laudeを受賞されていたが、こちらはまさに王道で当然の受賞である。

E-Poster会場
Poster on Stage

Controversy Session
 いつも楽しみにしているセッションなのだが、今回は個人的にさほど興味がなかった。まず1題目は減量のための左胃動脈塞栓術の賛否であった。外科医は内視鏡下手術の現況について語り、死亡率が0.1%未満であることや3ヶ月後に60%の患者で十分な減量が得られること、後の手術を考えた場合の血管へのダメージの懸念から、当然のこととして否定的な見解を述べた。一方推進論者はBEAT OBESTIY試験やGET LEAN試験の成績を紹介しながら、副作用は少ないし、6ヶ月で-17.2%の減量が期待できると主張した。日本ではもちろん治療適応となる患者数が圧倒的に少ないし、私は減量の99%は本人の自制心の問題だと思うので、より辛い介入治療の方が効果があるだろうと思っている(CMで有名な「結果にコミットする」減量ビジネスの成功は、高額だからだろう)。驚いたのは討論の前も後も、聴衆の約7割が本法に賛同していたことだった。欧米人の肥満への感覚は、やはり私たちとはちょっと違うのかもしれない。
 2題目は痔疾に対する上直腸動脈塞栓術の話であった。これは昨年のCIRSEで登場してかなりの話題になったテーマである。これもまた外科医との討論であったが、外科医は「バンド結紮術など2分で終わる、なぜ塞栓術などするのか意味不明。合併症が生じた症例や潰瘍などのひどい症例は結局自分たちに紹介される」とボロクソであった。IVR医は冷静に自分たちの成績を紹介したのみだったが、これはまあ適応の問題だけだろう。IVR医の方も、外科医を含めたチーム医療のなかで適応をしぼって施行しているのだから。会場でもまだ、本法については理解が深まっていない。
 3題目は橈骨動脈アプローチの話であった。循環器の世界ではもう決着がついたようなものだが、放射線科のコミュニティではいまだに、経路が長くなる上に大動脈弓というハイリスク部位を通過せねばならないこの方法への抵抗は少なくない。まあ大腿動脈アプローチで偽動脈瘤ができそうな患者や腸骨動脈の閉塞があるような患者でぼちぼち増やしていくよりないように思っている。

新たな塞栓剤、デバイス
 AZURコイルの被覆材を用いたLIFEPEARLは、「企業は資金提供のみで、試験自体はCIRSEが請け負う」CIRELというレジストリ試験が始まることを昨年報告したが、1年経ってようやくプロトコールが完成し、まもなく登録が開始されるという状態のようである。この試験では使用された全例が登録され、CIRSEがデータの蓄積や効果の中央判定を行う。試験期間は3年とのことであった。またアドリアマイシンを含有させた製品ではPARISというレジストリ試験が行われるようだし、イリノテカン含有のLIFEPEARLも臨床試験の計画が進んでいるようである。
 その他、イダルビシン含有ビーズなど新しい試みはあるが、まだデータは出ていない。またイリノテカン含有DCBも、最初に小規模なランダム化比較試験で優位性が証明されたにもかかわらず、大規模な成績は紹介されず、普及も止まったままのようである。溶解する時間を調整できる塞栓剤についても、まだまだ実験段階のままのようであった。
 Surefireという逆流防止機構のついたカテーテルは、昨年のCIRSEで発表されたPrecisionという2.8Frで柔軟なバージョンが使用可能となっていて、宣伝もかなりされていた。バルーンと同様に圧勾配は生じるようだが、完全な閉塞ではない。逆流防止という安全性と腫瘍集積効果の増進という有効性の両輪で宣伝されているが、後者についてはB-TACEと同様に逆効果の症例もあるに違いない。ただそれについて細かな報告はなかった。DEB-TACEの症例を対象に、本デバイス使用例と非使用例を比較するランダム化比較試験(QED試験)が始まるとのことなので少し興味がある。B-TACEも早くデータを出さないと、このままでは科学的にどうしようもないと思う。
 EverlinQのスポンサードセッションにも出席した。昨年のCIRSEでもっとも興味を惹かれた新製品の1つで既に報告したと思うが、上腕動脈と静脈からそれぞれ超音波ガイド下でカテーテルを挿入し、両者を磁石でくっつけた後にRFでその間に5ミリくらいの切開を加え(2秒間)、そのままカテーテルを抜去すると透析用動静脈シャントが完成するという、画期的な製品である。初期成績はすでにJVIRにも報告されている。順調に臨床試験を重ねているようであったが、成長のスピードは予想外に鈍い。

その他
 Film Interpretation sessionは、数年前から聴衆全員参加によるクイズ形式に変わっている。今回は三択だったので、配布されるのが帽子から三色の旗に変わっていた。症例はベーチェットや軟骨肉腫など5例程度であったが、バルセロナがUFEA決勝戦に進んだ回数などIVRに無関係な設問が半数を占めた。最後の問題も、バルセロナ地下鉄の総距離であった。アルゼンチンのIVR医が最初に長考して150kmと答えたのがニアピンで、トップに輝いていた。マルファン症候群の有名人としてリンカーンやラフマニノフと並んでビンラディンやマイケルフェルプスらが挙げられていたが、真偽のほどには若干の疑義がある。
 動脈アクセスのセッションもほぼ満員だった。順行性の浅大腿動脈アプローチ、足背などからの逆行性アプローチ、橈骨動脈アクセスに加え、鎖骨下動脈アクセスについてもその基本が話された。日本において鎖骨下への動注リザーバー留置や中心静脈カテーテルが辿った歴史と同様に、外科的切開、ついで前もって挿入したガイドワイヤーを目指しての透視下での穿刺、そして超音波ガイド下穿刺へとトレンドが変遷している。止血にはPercloseを使うことが推奨されていた。ほとんどは基礎的な内容だったが、末梢動脈への関心やシェアが日米に比べてまだまだ高いことを実感させるセッションであった。

全員参加のクイズ
奥野先生の講演

講演会場
機器展示場

終わりに
 最後にひとつ、個人的で申し訳ありませんが、重要なお知らせがあります。RadFanの創刊以来、多くの学会報告を書いてきましたが、今回で最後にさせていただきます。17年あまり前に私は、大学を辞めると学会や研究会の情報が一気に入りづらくなることを痛感しました。忙しさや経済的な理由からなかなか海外や県外の学会に参加できない放射線科IVR医の仲間たちに、少しでも新しい情報を届けたいと報告を始め、微力ながら一所懸命続けてまいりました。学会場その他で「役に立ちました」とか「次回も楽しみにしています」とか言われる度に、嬉しくてやり甲斐も感じてきましたが、現場を離れてもう長い時間が経過し、最近は自分が感じていることが本当に皆さんの診療に寄与するのか自信が持てなくなっています。さらには還暦を過ぎて体力の低下を実感し、ぶっちゃけ仕事であちこち出かけるのが億劫になってきました。数年前に地方会の報告を書くのを止め、日本のIVR学会総会も昨年で最後にしました。今年のCIRSEは何とか頑張りましたが、時差ボケと闘いながら毎朝早くからいくつもの会場をハシゴして駆けまわるのが辛くなったのが正直なところです。幸い、学会の報告なら他にも若い方で書ける方がたくさんいらっしゃるので、静かに後進たちに道を譲りたいと思います。なおこれからも体力・知力の続く限りは学会・研究会に参加はし続けるつもりですし、感動したら時々つぶやくことはあるかと思います。長い間、本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

メンバーラウンジの昼食
Japan Night会場からの景色

サクラダファミリア
カサ・バトリョ