ASTRO印象記

2014.12.18

2014年9月14 〜17日まで、Moscone Center(カリフォルニア州サンフランシスコ)で開催された第56回米国放射線腫瘍学会(ASTRO)を、がん・感染症センター都立駒込病院放射線診療科治療部の田中先生にご執筆頂きました!

 

ASTRO印象記
がん・感染症センター都立駒込病院放射線診療科治療部
田中 寛

はじめに

 2014年9月米国、サンフランシスコにてASTRO`S 56TH ANNUAL MEETINGが開催された。筆者は緩和放射線治療と頭頸部癌を専門としており、ANNUAL MEETINGでの参加したセッションは緩和放射線治療が中心であったが、その中で印象的であった発表を含め筆者の体験を記す。

Spine SBRT

 今回のASTROで印象的であったのはSBRTの発表が多く見られたことであった。米国では転移性脊椎腫瘍に対する疼痛緩和照射にSBRTが頻用されており(以下Spine SBRT)、緩和照射の教育セッションでもSpine SBRTをいかに日常臨床の中で使用していくか、などが話題の中心であった。しかし本邦、欧州やアジア諸国ではSpine SBRTは日常臨床で広く用いられているとは言えない。この点で米国の状況はやや特殊なものになっていると言える。コンベンショナルな照射と比較したSpine SBRTの優位性は高いエビデンスレベルでは示されていない。同治療が現在の標準治療であるコンベンショナルな照射に対して優位性を持つかどうかは現時点では不明である。しかし、疼痛緩和照射でも再照射の場合や転移性骨腫瘍が単発であった場合には、Spine SBRTは選択肢として挙げられるであろう。放射線治療がEBMであるとするのならば、米国でのSpine SBRTが日常臨床で頻用されている状況は本邦にそのまま導入するには、やや先を急ぎすぎてしまっているように見えるかもしれない。とは言え、研究対象としてSpine SBRTは非常に興味のある分野である。筆者も臨床試験を中心に同治療を施行しており、今回の学会では同治療に関する研究を発表した。
 筆者が参加したセッションの発表で印象的であったものを報告する。

合併症①Vertebral Compression Fracture(VCF)

 University of TorontoよりSpine SBRT後の脊椎圧迫骨折(以下VCF)に関する発表があった(Oral 270)。
 Spine SBRTは北米の多くの施設で日常臨床に取り入れられつつある治療であるが、その合併症としてVCFが生じることが広く知られており、その危険因子がこれまでに研究されてきた。今回の研究では北米の多施設から252人(410病変)が溯及的に検討され、410病変は327の既存のVCFが無い群(de novo)と、83の病変のある椎体内にすでに骨折が存在する群(fracture progression)とに分けて比較検討され、VCFはCTおよびMRIにて評価された。新規VCFまたはVCFの増悪はdenovo群:27カ所(8.3%)/fracture progression群:30カ所(36.1%)に認められた。fractureprogression 群のde novo群に対するVCFのリスクはHR 5.38(95% CI = 3.21-9.03)と優位に増加していた。これまで転移性骨腫瘍を有する椎体がVCFを生じるリスクはSpinal Instability Neoplastic Score(SINS)によって評価されてきた。特にSpine SBRTによって転移性椎体骨腫瘍を治療する場合はSINSおよび、これまでに報告された1回線量(20Gy以上)に加え、既存のVCFが標的椎体に存在するかどうかも評価項目に取り入れるべきであると結論づけられていた。

合併症②神経障害

 Memorial Sloan Kettering CancerCenter(MSKCC)よりSpine SBRT後に生じる末梢神経障害に関する発表があった(oral 272)。 
 近年高線量の放射線治療後に生じる腕神経叢および仙骨神経叢の神経障害がたびたび報告されており、MSKCCのデータベースを溯及的に検討し、そのリスクが検討された。2004年-2013年にMSKCCにて転移性脊椎腫瘍の初回治療として18-24 Gy/1fr.のSpine SBRTが施行された472例(562病変)が対象であった。262病変への照射に腕神経叢(79病変)または仙骨神経叢(183病変)が含まれており、13例(2.3%)に腕神経叢または仙骨神経叢の障害が認められ、11例がGrade 2、2例がGrade 3のneuropathyであった。Spine SBRT後に生じる末梢神経障害の発生確率は低く、2例を除けば日常生活への支障は無かった。今回の検討による24Gy / 1fr.のSpine SBRTによる末梢神経毒性は許容可能であると結論づけられていた。

1-スライド1

図 ASTRO’S 56TH ANNUAL MEETINGで発表されたSpine SBRTのセッション。

 
続きは「RadFan」12月臨時増刊号(2014年12月10日発売)にてご高覧ください。