IVR学会2013~素晴らしいプログラムに感謝、打田先生・滝澤先生を偲びながら明日へ~

2013.05.23

IVR学会2013
~素晴らしいプログラムに感謝、打田先生・滝澤先生を偲びながら明日へ~

IVRコンサルタンツ
林 信成

 平成25年5月15日から18日まで、軽井沢プリンスホテルにて開催された第42回日本IVR学会総会に参加した。ちょうど暑くなり始めた頃の軽井沢開催で、ほぼ毎日好天に恵まれ、多くの参加者で賑わった。私はいつも紙媒体が送られて来てからプログラムを見るのだが、内容のあまりの充実ぶりに現地入りする前からクラクラ・ワクワクし、時間が重複するためにどのセッションを聞かないで我慢するか、長時間悩んでしまった。プログラムを見ただけでこれほど興奮したのは久しぶりだと思う。落ち着いて考えれば私もプログラム委員の1人なので自画自賛ととられては困るが、そうではなくて大会長の中島先生、プログラム委員長の西巻先生たちスタッフが素晴らしい仕事をされたのである。事務局長をされていた滝澤先生に大会を見ていただけなかったことだけが残念である。
 感動した最大の理由は、何と言っても他科医の講演が多かったことである。IVR学会の大半は放射線科医であるが、世の中のIVRの多くは循環器内科医・血管外科医・脳外科医・消化器内科医などによって施行されているのが現実である。これを直視しないで内輪だけで討論していてもどうしようもない分野がいっぱいある。実際、彼ら他科医の講演からは学ぶところが多くあった。当たり前だが、大切なことは「患者さんにとって最良の医療が施される」ことであり、誰がIVRを施行するかではない。
 しいて難点を挙げるとすれば、やはり規模が大きくなってマネジメントが難しくなったことだろう。前述のように聞きたいセッションが重なって聞けなかったものが少なくなかった。例えば中島先生の大会長講演は、ものすごく聴きたかったのだが、下肢PTAのセッションと重なってしまい、断腸の思いで諦めた。またハイレベルな内容が話されたSIRからの招待講演の客席は、残念ながらガラガラだった。それからホテルの収容人数が現在のIVR学会には不十分で、「ホテルが取れないから参加しなかった」という話もチラホラ聞いた。今後はこの規模の学会を開くのに、現状の軽井沢では難しいかもしれない。
 以下、いつものように参加できて印象に残ったセッションを中心に、私的な印象を報告する。

末梢動脈
 浅大腿動脈のシンポジウムと重症下肢虚血のシンポジウムに参加した。ともに参加者があまり多くなく、やはりこの分野における放射線科のシェア低下を痛感した。特に後者は、直前の大動脈エンドリークのセッションには比較的多数の参加者があっただけに、少し不思議で残念な気がした。施設基準などの問題から大動脈ステントグラフトに放射線科医がかかわる例は増えているが(全体の伸びが大きい)、末梢動脈はなかなか症例数が厳しいのかもしれない。
 浅大腿動脈のシンポジウムは血管外科医と循環器内科医の司会であった。それはそれでかまわないのだが、残念だったのは、時間の関係もあって討論がなかったことである。外科手術か血管内治療かという討論はもう聞き飽きたし、循環器内科医もまともな施設では以前ほどメチャクチャやりすぎなくなって、ある程度の妥協点は見いだせてきている。しかしProvisional stenting(バルーンPTAで不成功・不十分な場合にステント挿入)なのかPrimary stentingなのかといった話題は、少し討論して欲しかった。ベアステントと薬剤溶出性ステント(DES)の使い分けについては、新生内膜によって覆われる時期が異なることが血管内視鏡所見で示されるなど、日本の循環器内科ならではの所見が興味深かった。ただ日本の場合はそもそもステントの選択肢が少なく、現実には「どのメーカーがリコール中か」に大きく左右されていることが悲しい。それぞれの製造メーカー主催の講演会を聞くと、いずれも凄いなと思わされるが、結局は「最新のメジャーなステント」の様々な奏効率は、製品によってさほど大きくは変わらないとも言えよう。前述のように血管内視鏡の所見を見せていただいてベアステントとDESの違いについて改めて考えたり、REAL-FPという多施設共同の後ろ向きRegistry試験の症例数に圧倒されたりということもあった。冠状動脈に比べて圧倒的に再狭窄率が高い浅大腿動脈では、まだまだ改良の余地があるのだろう。神様が頭や心臓の血管を少し性状を違えて造ってくれていることが大きいのかもしれないが。
 重症下肢虚血のセッションも、参加者は少なかったが非常に面白かった。最も印象的だったのはフットケア外来をされている形成外科医の講演で、内容を要約すると以下のようである。日本の医療全体について示唆に富む内容ではなかろうか?
・寝たきりや車いす生活で廃用となるのを避けることが重要。「歩かない、歩けない」患者は治療しない。
・長期入院によって廃用となるのを防がねばならない。したがって準緊急であるCLIにおいても、頑張って歩く意欲を出させてから治療する。治療の翌日から歩ける血管内治療が第一選択である。
・治療には動脈の開存と同じくらい静脈還流も重要で、だからこそ早期に歩かさなくてはならない。
・最近は透析関連メディカルスタッフの目が行き届いてCLIが早期発見されるようになり、昔のような重症例が減少している。
 その他にも、股関節や膝関節などNo stent zoneにおけるEndarterectomyの重要性が強調されたり、そうは言っても現実にはそれを断る血管外科医がいたり、血管新生療法の有効性を検証するランダム化比較試験が始まるアナウンスがあったり、短時間だが極めて中身の濃い充実したセッションであった。

腫瘍
 DCBの薬事承認が下り、年末くらいには他の商品を含めて数種類が使えるようになりそうだということで、これに関連したセッションや講演が多数あった。いずれのセッションも多数の参加者で賑わい、IVR医の関心の高さが強く感じられた。教育的講演でも、これを意識したものが多かった。ランチョンセミナーでは荒井保明先生が「ビーズ上陸への心構え」として講演されたし、肝動脈塞栓療法研究会では「ビーズが日本にやってくる」として4本の講演があった。薬剤について保険適応の曖昧さを残したままだが、これは窮屈な規制の中での日本的な落としどころなのだろう。どの演者も共通して強調されたのは、「従来の塞栓剤のつもりで注入してはならない」ということである。希釈して緩徐に注入しないと、結局は凝集してビーズならではの良さが発揮できない。そしてまた重要なことは、ついにビーズが使えるのだから、今こそTACEに関して世界最高レベルの技術を持つ我々日本人IVR医が、きちんとしたランダム化比較試験をしなくてはならないということである。技術的な問題や薬剤溶出性ビーズの普及から、欧米で今からランダム化比較試験が行われることは不可能に近い。今こそ日本の出番だし、そのためにこそJIVROSGでは、日韓共同試験などでProspectiveなデータを揃えて準備を整えてきたのである。
 肝動脈塞栓療法研究会の臨床研究部会の報告では、アイエーコール・リピオドール動注療法に関する臨床試験の現況報告がなされた。14施設から35例が登録され、うちBCLC基準では20人がB、15人がCであった。mRECISTによる奏効率は、4週後57.1%、3ヶ月22.9%とのことであった。秋には経過観察期間が終了し、来年には生存期間が報告されるだろう。進行例が対象なので驚異的な成績ではもちろんないが、セカンドラインとして試みる価値があることを裏付けてくれそうである。
 臨床研究部会からはもう1つ、新たな臨床試験開始のアナウンスがあった。BCLC基準Cの患者を対象として、標準治療であるソラフェニブにTACEを加えることの有効性を検討する試験である。前回のIVR学会で松井修先生らからクローズアップされたのは、「BCLC基準で中間群であるBの中には、比較的軽度で選択的TACEが寄与する患者と、多発して局所治療が大きな意味を持たない患者が両方いる。これらを一緒くたにして治療法や成績を論じるには無理がある」というものであったが、今回は「進行群であるCであっても、VPが1あるいは2ならTACEの対象となるだろう」という、日本ではかなり当たり前に実施されている治療の正当性を証明するのが目的といえよう。仕方ない面があるとはいえ大雑把すぎるBCLC基準を細分化し、より個別的な医療を行おうとする日本ならではの良い試験だと思う。
 ビーズの登場によって、日本における肝腫瘍に対する血管内治療がどの程度変化するかはまだよくわからない。しかし、日本ならではの早期発見される小型の腫瘍に対しては、リピオドールという液体塞栓剤の有用性・優位性は依然として残るだろうし、最近ではバルーン閉塞下TACEもじわじわと普及しつつある。一方で超進行例や乏血性に分類される転移性肝腫瘍に対しては、誰もがBland embolizationを容易に試すことができるようになる日がついに来るのである。繰り返しになるが、普及しきらないうちに臨床試験がなされなくてはならない。ちょうど初日のOncologic Emergencyのセッションでは、最後の総合討論で座長の放射線腫瘍医から苦言というか素朴な質問があり、私たちIVRコミュニティーにおけるエビデンスなど科学性の乏しさ、きちんとしたガイドラインのなさが厳しく指摘されてしまった。これが最後のチャンスではないかと思う。

門脈圧亢進症
 SIRを代表して来られたDr.Saadの講演は面白かった。米国ではなかなか理解が進まなかったBRTOだが、最近では一部の施設を中心に急速に症例が増えつつある。デバイスや薬剤の違いが大きいことが普及の妨げに思われていたのだが、やはり何よりも大きいのは「彼らがきちんとBRTOの理論的根拠を理解した」ことだと思う。RadioGraphicsに約10年間隔で出た清末一路先生らの2つの論文に対するEditorialのコメントが全く異なることからもよくわかる。GESTも貢献しているし、今後はきっと欧米でも急速に伸びるに違いない。彼らはもともと大規模施設に症例が集積しているし、BRTOだけでなくTIPSの症例も豊富である。BRTOとTIPSを対立軸として考えるのではなく、「BRTOを施行して瘤を治療した後にTIPSで減圧を図る」という戦略は、とても説得力がある。BRTO後に、早期では食道静脈瘤に対して、後期では腹水に対して、すでに多数のTIPSが施行されている。保険適応などの問題から安易にTIPSを施行できない日本では難しい研究が、今後は米国でどんどん行われることだろう。

バルーン閉塞下NBCA これをテーマとしたランチョンセミナーに参加した。大きな会場がほぼ満員となり(チケットは売り切れたらしい)、大盛況であった。IVR医の関心の高さが伺える。この方法は、Fragmentationや血行動態の問題から、NBCAが目的とした出血部位に到達できない事態をSalvageするために開発されたものだと理解している。ただ講演では、どう考えても入れすぎだろうと思われるほど注入してバルーンカテーテルが体内に残ってしまった症例、バルーン閉塞下でマイクロカテーテルを用いたが、やはりマイクロカテーテルが固着して体内に残った例も呈示された。さらには重症膵炎を生じさせた例もあった。座長は文字通り絶句されていたが、私も似たような思いだった。このような失敗例が共有されることは大切で、Morbidity & Mortalityセッションはそのためにある。しかしあくまでもこれは、生じてしまった有害事象を真摯に反省し、同じ事象が繰り返されないためのものである。患者にとってはもちろん、笑い事ではすまない。ちょっとショックが大きかった。

椎体形成術
 このセッションも面白かった。放射線科で施行されているのは圧倒的にセメント注入による椎体形成術であるが、穴を空けるだけの穿孔術もあれば、まずバルーンでスペースを造るKyphoplasty(BKP)もある。シャム手術とのランダム化比較試験は、プラセボ効果の果たす役割の大きさを再認識させるとともに、セメントの必要性についても再評価させ、安易な適応拡大を抑制する良いきっかけではなかったかと思う。最後の白熱した討論を聞いていると、おそらく対象患者の中には侵襲的な介入治療までしなくても良かった可能性がある患者が含まれているようだし、穿孔だけで軽快する患者も相当数いるようである。また穿孔術には、異物が体内に残らないという圧倒的な利点もある。しかしセメント注入を必要とする患者群も確実に残ると思われるし、それを全身麻酔や施行資格を必要とするBKPで行うべきかどうかは、患者の状態だけではなくBKPのスキルによっても異なるようである。BKPを強力に推奨する整形外科医の熱弁はそれなりに説得力があったが、「最後は全部自分たちで管理するのだから」という議論に持ち込む姿勢には、自分たちしか立ち入れないSelf-referral医療の危険性を感じた。このセッションではQOL評価についても教育的な優れた講演があったので、客観的な第三者の目がいかに重要なのかをわかってもらいたいと思う。3つの治療法すべてを経験されている施設の講演は、Retrospectiveではあるがかなりリーズナブルな結果であった。できればProspectiveに検討してもらいたいものだが、保険の問題が絡んでなかなか複雑で難しいのかもしれない。

症例検討会
 最終日の午後に開かれ、「症例検討会」というだけのタイトルなのでさほど目立たなかったが、秀逸なセッションだったと思う。特殊な症例だけではなく日常的な症例が多く含まれ、中堅の演者らが症例呈示・回答・司会を務め、日本のIVRの実際の現場におけるリアルな質の高さが感じられた気がした。またフロアからも、いくつも貴重な発言があった。以前からも「あなたならどうする?」や「M&Mセッション」などはあったのだが、少し特殊すぎる症例が多くて議論がかみあわないことも少なくなかった。今回は演者や症例の選択が良かったのだと思う。参加者に挙手アンケートをとる機会は、時間さえあればもっとやってほしいと思う。私は帰りの予定があって3分の2を聞いたところで失礼したが、最後まで楽しみたかったセッションだった。来年も是非開催していただければと思う。

情報の共有:「タイムアウト」とは?
 メディカルスタッフの方々が多く参加されるセッションで、「情報の共有」というシンポジウムの座長をさせていただいた。患者情報を医師・看護師・技師が共有することの重要さは当然だが、それをどの程度までどういう形で行うかは、施設によって大きな差がある。今回、ほとんどの演者がタイムアウトについて触れられたのだが、その具体的内容には大きな違いがあった。問題が少し複雑なのは、ガイドラインとか施設認定基準に「手術におけるタイムアウトの実施」が含まれるようになったことである。タイムアウトとは、関係者全員が手を止めて集まり、患者・手術について確認する作業であるが、術直前に行われることもあれば、バレーボールなどと同様に手技が加熱したときに一息入れて冷静になるよう行われることもある。今回のタイムアウトはほとんど前者の意味である。しかしながら、それがWHOが提唱してランダム化比較試験で有効性が確認された「チェックリスト」とどう違うのか、その明確な違いはよくわからない。また施設により、申し送りやブリーフィング、術前ショートカンファランスをタイムアウトとしている施設もある。用語の定義を明確化しないと議論が成り立たない。患者さんの前でするのか別室でするのかで内容も異なってくる。また変に詳細なガイドラインが出てしまうと、訴訟回避のために無駄に長くなり、形骸化して結局は誰も真面目に聞かなくなるリスクをはらんでいる。現実的には患者さんをひとりぼっちにはさせられないのだから、患者さんも交えて全員で行う1分以内のチェックリストと、治療方針やリスクについて情報共有するショートカンファランスを分けて行うことになるのだと思うが、いずれもマンパワーが少なく時間が足りない中で行われるため、施設によって対応できる範囲は異なってくるだろう。患者の安全のために行うべきことが、訴訟回避のためだけに時間と労力を無駄遣いすることになる愚だけは避けたいものである。

 以上、たった3日間の日本で行われたIVR学会なのに、けっこうたくさん書いてしまった。誤解や偏りについてはどうかご容赦願いたい。ご意見があれば、是非とも編集部や私宛にお知らせいただければ幸いである。大会最初に打田日出夫先生を称え、懇親会で滝澤謙治先生を偲び、最高級のプログラムと内容に酔いしれた楽しい3日間であった。大会を成功に導かれた関係者の皆様に深く感謝し、個人的に現場を退いた身ではあるが、もうしばらく何らかの形でIVRに関わっていたい、愛するIVRのために裏方で少しでも貢献し続けたいと強く感じながら筆を置きます。