“アイデア”で広がるiDose4の有用性〜ノイズ低減技術から波及する 多彩な効果が、CT検査の未来を切り開く〜

2011.09.29

フィリップスが発表したiDose4は、今CTで最も注目を浴びる逐次近似再構成法だ。ノイズ除去やアーチファクト防止機能により空間分解能の向上を実現、また高画質を確保したままで被曝の低減も可能とした。
熊本中央病院では現在、Brilliance 64(64スライス)とBrilliance iCT(256スライス)の2台へiDose4を導入している。iDose4を導入した同院の臨床現場における有用性とその性能について、片平和博氏(熊本中央病院放射線科部長)と本田恵一氏(同放射線科診療放射線技師主任)にお話を伺った。

 

熊本中央病院でのCT検査

熊本中央病院にはCTが2台、MRI2台、RI1台、心臓カテーテル装置2台、透視装置2台、一般撮影装置4台、マンモグラフィ1台、放射線治療装置が1 台設置されている。CT検査は年間で12,000件弱行われており、検査数は日ごとに波があるが、平均すると日に40〜50件程度になる。他のモダリティとCT検査の使い分けは「部位によって使い分け方法は異なりますが、心臓検査ではCTを多く用います。MRIも使用しますが、スクリーニング的な胸腹部全般ではCTを使うことが多く、また急患の際は大抵CTを使用します」(片平氏)。iDose4を使い始めたのは2011年の5、6月からだ。iDose4 の設置作業は2日かからずに完了し、その後「ほとんどすべての検査においてiDose4を使用しています」(片平氏)という。
まずBrilliance 64にiDose4を導入してから数週間使用し「64スライスで足りなかったところを、iDose4がほとんど補っているという印象を持ち、iDose4 を搭載すれば64スライスでほぼすべての検査を高いレベルでカバーできると感じました。そのため、当院ではBrilliance iCTの使い方として、撮影時の管電圧を100kVpから80kVpへ下げたり、高体重の患者さんの検査など、64スライスでは厳しい撮影条件となり、ハイスペック、ハイパワーが要求される時に重宝して活用しています」と片平氏。

 

低被曝撮影の効果

ノイズ低減を実現し、低被曝での撮影を可能にしたiDose4では、「今までの半分くらいの被曝線量での撮影が実施できており、患者さんへ優しい検査になっています」(片平氏)という。また、被曝線量を変えずに画質を向上させる点においても「高体重の方とか、手を上げることができない方など、CT撮影に条件が悪い患者さんに特に効果があります」(片平氏)と語り、その効果を実感している。
さらに被曝線量を減らして検査できることで、パーフュージョン検査などが実施しやすくなり、診断精度を向上させることにもつながったという。また「以前の撮影より、被曝線量を約半分にできるパフォーマンスがあるため、より詳細な画像取得を目的として撮影しても被曝線量が今までと変わることがない。その点でも、診断能を上げることができる可能性があると感じています」(片平氏)との言葉が示すように、低被曝撮影がもたらす効果は様々なところに現れている。

 

低電圧撮影で実現した、
造影剤の減量

熊本中央病院ではiDose4のノイズ低減効果の高さから、今までよりも電圧を落としての撮像を実施している。「今までは120kVpで撮影することがほとんどでしたが、現在は64スライスと256スライス、それに患者さんの体重などの条件で、100kVpと80kVpを使い分けて撮影しています」(片平氏)。低電圧で撮影することによる利点として、コントラストの向上が第一にあげられるが、さらにコントラストが上がることにより、造影剤の造影効果も向上し、結果として造影剤量の減量にもつながったという。「電圧によって違いはありますが、100kVpで20〜25%、80kVpでは40〜45%くらい造影剤が減らせています。今まで腎機能が悪い方には造影剤を充分に使って撮影することができず、診断価値の低い画像になることもありましたが、今では iDose4によって少ない造影剤でも診断価値の高い画像を得ることができるようになりました(図1)」(片平氏)。低電圧撮影による効果は、コントラストの向上だけでなく、造影剤減量によって患者さんへの負担を抑えることで、撮影できる症例が増加したことも大きいという。

 

シャープな関数との相性の良さ
&アーチファクトの
低減による診断能の向上

今まではシャープな関数(高分解能関数)を使用すると、ノイズが増えてしまうため、使用したくてもできなかったという。「iDose4を使用することによって、ノイズの少ないシャープな画像が得られることは、診断能の向上に非常に貢献しています」(片平氏)。ノイズの少ない高分解能画像を得られることは、読影医の負担を軽減させていることだろう。
また、iDose4のもう一つの大きな特徴であるアーチファクトの低減については「一般的には線量を低減するとアーチファクトが出やすくなってしまいます。以前との単純な比較は難しいですが、やはり検診では、アーチファクト低減を実感しています。検診はもともと被曝線量を低くして撮影していました。そのため、iDose4を導入してから、肺尖部、肩からのアーチファクトは確実に少なくなっています(図2)」(本田氏)と語る。

 

患者さんへ優しい
検査の実現

低被曝、造影剤量の低下など、様々な効果をもたらしているiDose4。実際に使用してみて、患者さんへのメリットについては次のように考えているという。
「撮影における被曝線量は約半分になっております。しかし、被曝線量の低下については、目に見えないものですので、効果というものを示すのは難しいです。それでも、被曝に対する意識が高まっている現在、患者さんに安心感を与えることができるでしょう」(片平氏)。被曝線量が今までの半分になるというのは、説明を受ける患者さんにとってもインパクトは大きい。
また、造影剤量の減量については「腎臓の悪い患者さんには大変なメリットです。腎機能障害はそのまま患者さんの生命予後に直接関係しますので、とても大事なことです。また、造影剤の注入速度も遅くなりますので、注射する針を一段階小さい針で済ませられる点も侵襲性が低くなったといえます」(片平氏)と語る。注入速度が低下したため、実際に患者さんから「前回の撮影時はすごく熱く感じたのに、今回は熱くない」との声も聞こえているという。
熊本中央病院でのCT検査において、e-GFRが60以下の患者さんは3〜4割程度に上るという。今までは適切な造影剤量を使用できず、診断能の低い画像しか得ることができなかった患者さんに対し、少ない造影剤量で造影効果の高い画像が得られることは、患者さんに対しても読影医にとっても大きなメリットである。また、造影剤量が減らせることは、検査時点で腎機能に問題がない患者さんにもメリットがある。「特に高体重の患者さんでは、通常100mL以上使用していた造影剤を100mL以下に減らすことができます。これは将来的な腎機能を低下させるリスクを減らせるということですね」(片平氏)。
手術後の患者さんのフォローアップへの効果も大きい。「手術後の患者さんへの定期的なCTの撮影について、その1回1回が被曝線量、造影剤量ともに減らすことができます。累積被曝数や累積造影剤負荷を減らせるのは、患者さんへの大きなメリットの一つです」低被曝、ノイズ低減というiDose4の機能は、造影剤量の低下という波及効果をももたらし、確実に患者さんの負担を減らしている。

 

iDose4導入後の
プロトコールの変化

低電圧での撮影や造影剤の減量などiDose4の導入により変化した点は多い。またiDose4では被曝線量について7つのレベルがもうけられている。実際のプロトコールはどのように作成、運用されているのだろうか。
「当院はまず中等度のレベル4を中心に画像再構成を行っており、そのレベルにて画質を担保できるように撮影条件を決めています。具体的には当院ではほとんどの検査を、管電圧100kVpで行っており、ルーチン検査に関しては、画像SDを120kVpで撮影していたときと同等のSDになるように、 iDose4レベル4に合わせた管電流を設定することによって、画質が担保されるようにプロトコールを作成しました。またCTアンギオにおいては最高度のレベル7を使用し高分解能関数と組み合わせて、3D画像の末梢血管描出やステント内腔描出について検討していきたいと思います」(本田氏)。
では、もともと被曝量の低い、胸部検診用のプロトコールについては、iDose4はどのような変化をもたらしたのだろうか。「胸部検診については、5mm の結節が検出できるようにという認識を持っています。もともと被曝線量の低い検診では、iDose4は画質の向上へ寄与しています。また、特に肺野と iDose4は相性が良いですね。高コントラスト領域に関しては特に相性の良さを感じます」(本田氏)。もともとが低線量の場合には、画質の向上へ効果を発揮することができる、その可用性の高さもiDose4の大きな魅力である。

 

iDose4の使い分け

低被曝での撮影、高画質での撮影など、様々な撮影が可能なiDose4。実際の臨床の現場では、どのように使い分けがされているのだろうか。「現在はまだ試行錯誤な部分もありますが、診断能を下げないことがまず重要と考えています。その条件下でもiDose4のノイズ低減効果を活用し、被曝線量は確実に低下しています。そのため、低被曝での撮影、薄いスライス厚での画質向上や、高分解能関数を使った撮影など、その症例ごとにメリットを選択できます。また、元データで診断しないとき、3D作成時の原画などでは、さらに被曝線量の低くなるレベルを使用しています」(片平氏)。iDose4の様々な効果は症例ごとに使い分けることにより、患者さんの負担はもちろんのこと、ノイズ低減などの高画質化による診断能の向上も期待できる。

 

iDose4を使用しての感想

様々な革新を提供したiDose4。今まで使用してきた、その率直な感想を伺った。「はじめはただノイズを低減する機能という認識でしたが、管電圧を変えたり、造影剤注入方法と組み合わせることによって、低被曝にも高画質化にも幅広く使える技術であると感じました」(本田氏)。そのようなiDose4の使用経験の中でも、最も威力を感じたのはアンギオ系の検査だという。「低電圧と組み合わせることによりこれまでの注入条件と比較して速度、量ともに大幅に低減しているにもかかわらずこの画像が撮影できるのか、と驚きました」(本田氏)。また、読影医も血管画像の画質向上に関して驚きを感じているという。「iDose4を使用し、低電圧で撮影した血管の画像は、コントラストが高いので、臨床的有用性が高いです。ヨードのCT値が上がり真っ白に撮影されるので、たとえば血管内に血栓や内腔狭窄などがあると、コントラストがはっきりつきます」(片平氏)。今まではノイズの増加などの理由により実施できなかった低電圧撮影が、非常に効果を発揮している事例である。

 

今後の展望

導入してまだ半年に満たないが、様々な驚きと効果をもたらしているiDose4。今後どのような期待を持っているのだろうか。「iDose4はノイズ低減、低被曝に付随して、様々な効果をもたらしてくれました。それはつまり、どの効果を選択するかによってアイデア次第で様々な応用ができるということです。低被曝、高分解能、造影剤減量、それぞれをどのように振り分けるか、患者さんに向き合い、真剣に考えていかなければならないと思います」(片平氏)。
iDose4によりCT撮影の可用性が広がり、CT検査の有用性はさらに高まった。そのため、患者さん一人一人に対する適切な撮影方法の選択が、今まで以上に可能となる。CT検査の新たな可能性を開いたiDose4が、今後どのように医療現場を変革し、活用されていくのか、注目である。

 

熊本中央病院

 

片平和博氏
熊本中央病院
放射線科部長

 

本田恵一氏
熊本中央病院
放射線科診療放射線技師主任

 


 

図1 80代男性、大腸癌術後再発チェック目的経過観察中、腎機能障害あり
a  前回120kVp(FBP法)で240mgⅠ/mLの造影剤80mL使用(体重あたりの最適容量ではない)

 

b  今回80kVp(iDose4)で240mgⅠ/mLの造影剤84mL使用(80kVpで体重あたり最適容量使用)
低電圧CT(80kVp)を使用することで造影剤減量が可能である。低電圧CTではノイズが増えるがiDose4にてノイズを低減している。ほぼ同量の造影剤で造影剤コントラストの違い(→)が明瞭である。

 

図2 胸部低被曝CT症例(被曝線量0.4mSv)
a FBP法

 

b iDose4 Level 4
肩関節からのstreak artifact(→)が、iDose4ではFBP法より著明に目立たなくなっている。

 

図3 iDose4使用効果の概念図
iDose4では、状況に応じて低被曝と高画質の効果を使い分けることができる。