北海道大学と日立製作所が共同で、世界初の動体追跡とスポットスキャニング設備を有する 北海道大学病院陽子線治療センターで新たな高精度陽子線治療を実現~治療室内コーンビームCTと陽子線強度変調照射法IMPTの臨床適用を開始 | 放射線科情報ポータル Rad Fan Online(ラドファン オンライン) 医学出版社メディカルアイ

北海道大学と日立製作所が共同で、世界初の動体追跡とスポットスキャニング設備を有する 北海道大学病院陽子線治療センターで新たな高精度陽子線治療を実現~治療室内コーンビームCTと陽子線強度変調照射法IMPTの臨床適用を開始

2016.05.20

 北海道大学(以下、北大)は、(株)日立製作所(以下、日立)と共同で、2010年に国家プロジェクト「最先端研究開発支援プログラム」の採択を受けて開発した動体追跡照射技術とスポットスキャニング技術を適用した陽子線治療システムにおいて、今般、2つの新たな高精度陽子線治療の臨床適用を本格的に開始した。ひとつは治療室コーンビームCT、もうひとつは強度変調陽子線治療IMPT(Intensity Modulated Proton Therapy)になる。
 陽子線がん治療は、放射線によるがん治療法のひとつであり、水素の原子核である陽子を加速器で高速に加速し、腫瘍に集中して照射することでがんを治療するものだ。治療に伴う痛みがほとんどなく、身体の機能と形態を損なわないため、治療と社会生活の両立が可能であり、クオリティ・オブ・ライフ(QoL)を維持しつつ、がんを治療できる最先端の治療法として普及が期待される。北大と日立は、呼吸などで位置が変動する肺や肝臓といった体幹部の腫瘍の治療に対応するため、腫瘍位置をリアルタイムでとらえて正確に陽子線を照射する動体追跡技術とスポットスキャニング技術を用いた陽子線治療システムを2014年に世界で初めて実現した。
 北海道大学病院(以下、北大病院)では、2014年3月にスポットスキャニング照射による陽子線治療を開始し、2014年12月には動体追跡技術を組み合わせた動く腫瘍への陽子線治療を開始した。これまでに治療した部位の割合は、肝臓と前立腺がそれぞれ約4割、続いて肺、膵臓がそれぞれ約1割で、全体の約8割の治療に動体追跡技術が適用されている。
 今回、北大と日立が共同開発し、本格的な臨床適用を開始した高精度陽子線治療システムの概要は以下のとおり。

1.治療室コーンビームCT
 陽子線治療のさらなる高精度化のためには、体内の情報をより詳細に把握することが必要だ。通常の二方向からの二次元X線画像から得られる骨の位置、動体追跡技術によって得られる腫瘍の動きの情報に加えて、腫瘍周辺の正常組織、特に軟組織の位置・形状が把握できれば、腫瘍への陽子線照射精度を高めると同時に、正常組織への被ばくのリスクを大幅に低減することが可能となる。そのため、治療室で照射直前に体内の三次元画像を取得可能な技術の実現が求められていた。
 北大と日立が共同開発した回転ガントリー搭載型コーンビームCTシステムは、治療直前に患者の体内の状態を三次元で正確に撮像することが可能であり、従来に比べ陽子線の照射位置精度を高めることができる。2015年3月の医薬品医療機器法に基づく医療機器の製造販売承認を経て、2015年10月に臨床適用を開始した。
 コーンビームCTシステムを用いることで、動体追跡技術を適用しない部位の治療においても高精度の位置決めを行なうことができる。回転ガントリー搭載型コーンビームCTシステムの実用化は、体内の三次元情報に基づく高精度な位置決めを可能にし、陽子線治療精度の向上に資するものと期待される。現在までに、治療患者延べ20人に対してコーンビームCTを用いた高精度治療を行なっており、今後も継続して臨床使用を行っていく。
 さらに、北大病院と日立は現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援による「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 低侵襲がん診療装置研究開発プロジェクト」を行っており、これにより、動体追跡治療精度の飛躍的な向上に向けた取り組みを推進している。

2.強度変調陽子線治療IMPT
 強度変調陽子線治療IMPTは、スポットスキャニング陽子線治療の一種で、複数方向から照射する陽子線の強度分布を自在にコントロールすることにより、病巣の形が複雑な場合や、正常組織が隣接しているような場合にも線量を病巣に集中し、正常組織への線量を低減できる照射法。北大病院は、日立と共同で、日立の陽子線治療計画システムを用いたIMPTの実現に向けて慎重に検討を重ね、陽子線スキャニングビームを用いた強度変調照射により、呼吸等で動く腫瘍に対しても正常組織を守ることが可能なIMPTを実現した。
 これにより、腫瘍と正常組織が複雑に隣り合う場合に、腫瘍への線量集中性を高めつつ正常組織への線量を低減できるとともに、放射線治療において免れない不確定性としての飛程誤差やセットアップ誤差に対しても強い線量分布を作る技術(ロバスト最適化技術)を組み合わせ、線量集中性を高く保ちながら、動きにも強い分布形成を実現した。 2015年8月にIMPTの本格的臨床適用を開始し、現在までに前立腺、肝臓、頭頸部、小児治療に対して適用されている。今後、学会のガイドラインと統一治療方針に沿った上で、さらに適応部位を拡大する予定だ。
 なお、本成果は、5月22日から28日にプラハ(チェコ共和国)で開催される第55回粒子線治療国際会議(PTCOG 55: Particle Therapy Co-Operative Group 55)にて、北大、日立から発表する予定だ。
 北大と日立はこれまで、陽子線がん治療の世界的な普及をめざして、北大病院の放射線治療で培ってきた知見と、日立の持つ設計技術の融合により、最先端の陽子線がん治療システムを共同開発してきた。今後も、医学・工学分野における両者の優れた技術・知識・経験を組み合わせ、今回の陽子線がん治療システム開発を通じて、QoLに優れた最先端の放射線医療・がん治療に貢献していく。

■スポットスキャニング照射技術の概要
 スポットスキャニング照射技術とは、腫瘍を照射する陽子線のビームを従来の方式のように拡散させるのではなく、細い状態のまま用い、照射と一時停止を高速で繰り返しながら順次位置を変えて陽子線を照射する技術で、複雑な形状をした腫瘍でも、その形状に合わせて高い精度で陽子線を照射することができ、正常部位への影響を低く抑えることが可能。

■動体追跡照射技術の概要
 動体追跡照射技術は、腫瘍近傍に1.5ないしは2mmの金マーカーを刺入し、CT装置であらかじめ腫瘍中心との関係を把握しておき、2方向からのX線透視装置を利用し、透視画像上の金マーカーをパターン認識技術にて自動抽出し、空間上の位置を周期的に繰り返し計算する。そして、金マーカーが計画位置から数mmの範囲にある場合だけ照射する。これを高速で行うことで、呼吸などにより体内で位置が変動するがんでも高精度で照射を行うことが可能になる。これにより、動いているがんの範囲をすべて照射する方法に比べて、照射体積を1/2~1/4に減らし、正常部位への照射を大幅に減らすことが可能になる。

●お問い合わせ
北海道大学大学院医学研究科病態情報学講座放射線医学分野
TEL:011-706-5977
(株)日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット放射線治療システム事業部
TEL:03-6284-3741
URL:http://www.hitachi.co.jp/

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