トロント小児病院、北米初の無切開骨腫瘍手術に成功

2014.08.20
トロント小児病院の外見
ジャック・カンパニーレ君(左)とジェームズ・ドレイク博士
 トロント小児病院*1は、8月19日、骨腫瘍子ども患者の無切開手術に成功したと発表した。この手術治療は成人の子宮筋腫や移転性骨腫瘍に施されているが、子どもの骨腫瘍手術への適用は北米で初めてとなる。

 今回、同院が行った無切開の骨腫瘍手術は磁気共鳴映像法(MRI)で腫瘍の位置を確定し、超音波を一点に集めて高いエネルギーを作り、高温で腫瘍を破壊するという高密度焦点式超音波治療法だ。従来の方法とは異なる非侵襲治療法のため、皮膚や周囲の骨は損なわれず、感染などの併発リスクも大きく軽減される。また、CTスキャンの代わりにMRIを使用したことで、患者が被ばくする怖れがない。この治療法は併発リスクを軽減し回復時間を短縮するのみならず、患者の痛みを大幅に緩和することができる。

 今回、手術を受けたのは、オンタリオに住むスポーツ好きの16歳の少年、ジャック・カンパニーレ(Jack Campanile)君。ジャック君は、術後の数時間のうちに退院し、その夜は久しぶりに痛みにも悩まされず、ぐっすり眠れたと笑顔で語った。

 医療技術開発の最前線に立つ同院の画像誘導技術開発・治療センター(CIGITI)*2のセンター長で、今回の手術リーダーの一人、ジェームズ・ドレイク(James Drake)博士は、
「手術には何年もの共同作業や調整作業を要しましたが、技術的にも組織的にも偉業と言える成果を出せたのは喜ばしい事です。この治療技術を生かし、軟部組織腫瘍、小児の脳卒中、てんかんなどを含む医療や外科手術分野に、新たな非侵襲治療法を開発することは非常に有望だと期待しています」
と述べている。

 同院の快挙を受け、オンタリオ州政府、レーザ・モリディ(Reza Moridi)研究革新省大臣は、以下の声明(一部抜粋)を発表して同病院の医療チームを称賛した。
「トロント小児病院は科学の新境地を開拓したばかりでなく、更に重要なことは、16歳の少年の痛みを即座に緩和するという、画期的な偉業を達成したことです。
 今回の偉業に貢献した20人以上から成る医師、科学者、技士、看護師、麻酔医のチームの中でも、私は、画期的な治療法を成功に導いたジェームス・ドレイク博士と、同病院のインターベンショナル・ラジオロジーの医師、マイケル・テンプル (Michael Temple)博士達のリーダシップを称賛したいと思います。
 今回の功績は、オンタリオ州に極めて優秀な研究者がいて、更に、同州が世界的に有名な研究所を支援している意義を確かに裏付けるものと自負するものです。そして、このような画期的な治療法を可能にする研究資金を提供し続けていることを光栄に思います。
今後、患者のジャック少年ができるだけ早く快方へ向かい、また彼の好きなスポーツであるスノーボーディングやホッケーができる日が日一日も早く来ることを祈ります」

■関連情報
 過去数十年の間、骨腫瘍の治療は侵襲手術で腫瘍を骨から削り取るのが一般的だった。1990年代半ば以降、より効率的でかつ侵襲手術より低リスクで、コンピュータ断層映像(CT)や無線周波数もしくはレーザエネルギーを使って、腫瘍を焼く低侵襲手術が普及した。しかし、放射線被ばく、感染、周囲細胞のやけどなどの一定のリスクは依然存在している。
 2014年7月17日に行われた今回の治療は、トロント小児病院のスタッフが、サニーブルック・ヘルスサイエンス・センター(Sunnybrook Health Sciences Centre)で特殊なMRIテーブルを使い、同センターのMRIおよび放射線腫瘍学スタッフのサポートを受けて実施された。
 治療自体は30分ほどで終わったが、3時間の事前準備を要した。同チームはMRIを使って、腫瘍の正確な位置を特定するほかに、治療中、腫瘍周囲に超音波による温度の上昇がないように監視(モニター)する。超音波は焦点周囲の細胞、神経や皮膚を破壊する怖れがあるので、正確な位置の把握やモニターは非常に重要となる。

・高密度焦点式超音波治療法のデモンストレーション(英語)
URL:https://www.youtube.com/watch?v=dEjhn9NaO10
・患者ジェーク少年のインタビュー(英語)
URL:https://www.youtube.com/watch?v=mzPtRpQ5mRc

*1 トロント小児病院(The Hospital for Sick Children, SickKids)
 同病院は、カナダ・オンタリオ州にある世界的に有名な小児病院の一つ。北米にある他の小児病院と比べても、国際性が際立っていることが大きな特色で、臨床フェローの約半数を外国人が占めている。子供たちや乳児向け手術用の次世代ロボットや医療画像診断術の最先端の研究を行っている。
URL:http://www.sickkids.ca

*2 Centre for Image-Guided Innovation & Therapeutic Intervention (CIGITI)
 CIGITIは、大学・ビジネス界から、外科医、エンジニア、そしてソフトウェア開発者を集結させ、ロボットを用いた低侵襲手術において革新的な技術を創出することをミッションにしている。CIGITIの研究領域は主にイメージング、ロボット、シミュレーションの3分野に分かれている。

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