NEDOが取り組む、微小がん治療を可能にする高精度X線治療機器の試作システムが完成

2012.06.28
治療室に設置された高精度X線治療システム
(ロボット型治療装置、ロボット治療台、動体追跡装置)
装置を設置している施設:独立行政法人国立国際医療研究センター
 がんは日本人の死因トップを占めており、がん患者の死亡率を低減させるためには、早期診断と精度の高い治療が不可欠。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(所在地:神奈川県川崎市、理事長:古川一夫、以下NEDO)は、2010年度から「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」プロジェクトに取り組んでおり、その一環として北海道大学、ベンチャー企業の株式会社アキュセラ、国立がん研究センター東病院、京都大学、株式会社日立製作所のグループが開発を進めてきた、従来品より小型かつ高精度なX線治療システムの試作システムがこのほど完成したことを、北海道大学、㈱アキュセラと合同発表した。

 この治療システムは、身体の中で複雑に動く臓器の微小ながんをリアルタイムに追跡し、健常な組織への被曝を最小限に抑え、高精度かつ迅速な治療を可能にするもので、患者の早期社会復帰を促すことが期待される。

背景
 我が国においては、がんは死因の第1位を占めているが、より早い段階で診断をし、精度の高い治療を行えば、がんの死亡率を低減させられると考えられている。現在、がんの治療法は、開腹手術など外科的な治療が中心となっているが、QOLの向上や早期の社会復帰のためには、身体的な苦痛を伴わず、入院期間が短い治療技術の確立が必要不可欠。
 NEDOでは、2010年度から「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」プロジェクト(プロジェクトリーダー:山口大学 加藤 紘氏)に取り組み、より早期にがんを発見し、治療方法を決定するための情報を獲得、侵襲性の低い治療法の選択を可能とすることで、生存率やQOLの向上につなげることを目指している。

今回の成果
 がんは、直径1cm以下であれば、放射線治療により90%以上が有効に治療できると言われている。がん病巣は呼吸などの体の動きにより複雑な動きをするため、従来はがん病巣が動く範囲全てにX線を照射する必要があり、周辺正常領域に影響のない治療が困難だった。この問題を解決するため、本プロジェクトの中の北海道大学、株式会社アキュセラ、国立がん研究センター東病院、京都大学、株式会社日立製作所のグループ(リーダー:北海道大学 白土博樹氏)は、がんの位置を正確に把握し、ピンポイントでX線が照射可能となる、高精度X線治療システムの試作機を完成させた。
 本治療システムの心臓部となる小型加速器(*1)は、X線を発生させる加速器の加速効率を上げ、マグネトロン(*2)を高出力化することにより、従来のガントリ型X線治療装置(*3)に用いられている加速器の約2倍ものX線強度(このサイズの加速器としては、世界トップクラスのX線強度)と細いビームの実現とともに、およそ半分となる全長約60cmの小型化を実現。このX線の高強度化により、X線ビームの照射野(*4)を直径3mm程度(従来の約60%)まで絞り込むことが可能となり、更に装置の小型化により、今まで実現できなかった、立体角360°に近い方向からのX線の照射も可能となった。

▲X線ナロービーム照射イメージ
(立体角360°に近い方向からの照射が
可能になった。患者の周囲の赤い点は
照射可能な位置を示す)
▲照射するX線の幅と強さ
(従来よりも幅の細いビームで、
放射線をガンに集中照射が可能になった)

 また、同装置には、北海道大学で開発を行った、高精度な動体追跡装置が組み込まれており、身体の中で複雑に動く臓器の微小ながんもリアルタイムに高精度で追跡することが可能。上述の小型加速システムを組み合わせることで、X線量を極度に集中化し、あらゆる方向から照射することで、体内深くに存在するがんを、他の正常な臓器に影響を及ぼすことなく治療することができるようになる。さらに、一回の照射で大量のX線をがんに集中照射が出来るようになるため、従来の治療に比べて患者への負荷が少なく、早期社会復帰が可能となる。
 なお、コストについても、従来のガントリ型X線治療装置と比べて、約1/2の価格を見込むことができ、多くの医療機関で活用されることが期待されている。

今後の予定
 2013年度までにX線治療システムの統合を終了し、その後、動作確認評価を実施、薬事申請に向けた準備を行うとしている。

*1 加速器:マイクロ波(電波)により電子を高エネルギーまで加速する装置。加速された電子をタングステンなどの金属に当てることにより、強力なX線を発生させることができる。
*2 マグネトロン:マイクロ波を発生させる一種の真空管で、加速器はこのマイクロ波を用いて電子を加速する。
*3 ガントリ型X線治療装置:現在広くがんのX線治療に用いられている装置で、ある軸を中心として加速器の部分を回転させ照射させる装置。
*4 照射野:体内に照射されるX線の断面のことで、体内の患部の位置でのX線の断面を指す。

●お問い合わせ
NEDO 
バイオテクノロジー・医療技術部 担当:磯ヶ谷、渡辺  
TEL:044-520-5231
URL:http://www.nedo.go.jp/index.html