「定量的骨シンチグラフィの意義 :BONENAVI」中嶋憲一先生

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2013.07.23
中嶋憲一先生
定量的骨シンチグラフィの意義 :BONENAVI 
 
中嶋憲一先生(金沢大学医薬保健研究域医学系・核医学)
 
第72回日本医学放射線学会総会 ランチョンセミナー8
日時 : 2013年4月12日(金) 
会場 : パシフィコ横浜会議センター  
共催 : 富士フイルムRIファーマ株式会社

はじめに
 骨シンチグラフィの進歩の1つがBONENAVIである。従来、骨スキャンによる骨転移の評価では、古典的には単純に放射性医薬品の集積具合から視覚的に病変の改善、悪化を評価するという手法があった。それをより定量化したものとして、転移巣の個数を数えて0の正常から4のSuper scanまで5段階で画像を評価するExtent ofdisease grade(EOD)で予後を評価することも考えられてきた。
 この流れの中で、Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerから骨転移の拡がりをBone Scan Index(BSI)という形で数値化する考えが提示され、現在臨床への応用が進んでいる。このBSIを算出するのが骨シンチグラフィ診断支援ソフトのBONENAVIである。
 
BONENAVIで算出される指標「ANN」と「BSI」
 BONENAVIで使用される指標の1つにANN(Artificial Neural Network)値がある。これはソフトに組み込まれたデータベースを基に対象症例の異常集積の確率を0~1までの連続した数値で自動的に算出・表現したもので、1に近いほど転移がある疑いが濃厚になる。ANN値の解釈は天気予報の降水確率とよく似ており、転移の確率を捉えるという意味で使用するのが望ましく、単純に特定の値、例えば50%を超えると転移と判定するわけではない(図1a)

図1a ANN

 もう1つの指標としてBSIがある。Hotspotのうちニューラルネットワークが学習した診断過程に基づいて転移リスクが高いHotspotを赤、リスクが低いHotspotを青で表示する。BSIは赤で示された転移リスクが高いHotspotの面積の合計に係数を掛け、全体の骨面積で割ったパーセンテージで表示し、いわば骨転移量の割合に相当する指標である(図1b)

図1b BSI

 BSIでは0 %で転移なし、0.5 〜5 %で概ね転移があり、5 % 超ではEODのSuperbone scanのようにほとんど全身に転移があると考えて良い。0 〜0.5%では画像を踏まえ慎重な判断が必要となる。このような相関関係を骨シンチグラフィ画像を参照しながら感覚として理解しておくと診断上有用である。
 
BSIとEODとの比較
 ここでEODとBSIを同一症例で比較する(図2)。EODでは大きな転移巣の個数をどう考えるか判定が難しい。しかし、BONENAVIでは転移のリスクが高いHotspotを検出し、BSIを算出することで定量的に経時変化を捉えることができる。このBSI値は治療などにより転移巣の状況が改善されれば、数値は低下することが確認されており、治療効果判定などにも重要な役割を果たすことができると考えられている。

図2 BSIとEODの比較

 
BONENAVI version2
 BONENAVIのANN値算出やHotspot判定は搭載データベースを基に行っている。従来はスウェーデンを中心に集積された症例を基にしたデータベースが搭載されていたが、現在日本国内では群馬県立がんセンターの堀越浩幸氏らによる904例を基にした日本人でのデータベースが搭載されている。堀越氏らが両データベースでの診断を比較した結果では、日本人のデータベースの診断ではヨーロッパでのデータベースと比べて偽陽性が確実に減少することがわかっている。また、2012年4月からは、多施設研究で9施設1,600例によるver.2への新たなデータベースを構築するプロジェクトがスタートした。
 ver.2データベースの特徴(図3)は性別を考慮していることと、全体のデータベースと前立腺癌あるいは乳癌の集団でのデータベースを内包しているという点である。
 感度と特異度は対象集団によって若干異なるものの、これまでの検討ではROC下面積からみた診断精度は女性ではver.1の0.918からver.2では0.954と向上し、感度を固定した場合、前立腺癌、乳癌とも診断特異度が向上することも確認されている。

図3 BONENAVI version 2

 
BSIを用いた多施設研究
 また、現在、骨転移を有する前立腺癌症例を対象にホルモン療法、化学療法などの全体的な治療過程の中でBSIを評価する研究「PROSTAT-BSI」が進行中である。同研究はマルチセンター方式で33病院が参加し、金沢大学に事務局を設置している。登録期間は2012年8月から2016年12月までが予定されている。この研究でBSIの経時的変化と前立腺特異抗原やその他の代謝マーカーの経時変化などを確認する。
 既にBSIの経過と予後に関しては数多くの報告がある。例えばMemorial Sloan-Kettering Cancer Centerからは、ホルモン療法を行った前立腺癌患者ではBSIの違いによってカプラン・マイヤー生存曲線で示される予後に違いがあり、BSIが高いほど予後不良であることが明らかにされている。
 
最後に
 BONENAVIのようなコンピュータ支援診断については偽陽性、偽陰性などもあり、正確性に欠けるため、診断への応用には躊躇するという意見もある。しかし、そもそもBONENAVIの位置づけは骨スキャンの補助診断法ソフトというものである。つまり特定部位での転移の有無を判定するというよりは、むしろ異常の可能性がある部位の検出漏れを防ぎ、転移の全体的な状況を確認しながら、予後改善のために治療戦略をどのように立案するかということに用いる診断上のバイオマーカーと考えるべきものである。