NEWS 2004.5.11



第15回 国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)報告記


図1 ウェリントンの風景。
2月22日〜25日、ニュージーランドの首都ウェリントンでISSVA (International Society for the Study of Vascular Anomalies) の第15回Workshopが開かれた。ウェリントンは北島南端の海岸沿いに映える美しい町(図1)だが、今では映画「ロード・オブ・ザ・リング」の撮影本拠地として、映画広告やキャラクター・オブジェに溢れていた。

ISSVA(イスヴァ)は、日本での知名度は低いが、血管腫・血管奇形(以下「血管腫」)を扱う公式の国際学会である。放射線科だけでなく形成外科・皮膚科・血管外科・小児外科・病理学など各科ドクターが集まり、診療科横断的に血管新生・遺伝子などの分子生物学から最新の臨床トピックスまで「血管腫」を包括的に扱っている。1976年に米国Harvard大学の形成外科医Dr John Mullikenと英国St. Thomas Hospitalの外科医 Dr Anthony Youngらを中心にボストンで最初のworkshopが発足し、1992年に正式な学会が設立された。2年毎に欧米で開催されてきたが南半球開催は今回が初めてで、約240名が参加した。日本からは、私を含め放射線科医2名、形成外科医3名と少なかった。私自身は1998年のベルリン以来2回目だったが、当時は旧東ベルリン市内の病院で100人に満たなかったのを思うと随分盛況だった。

ISSVAの重要な役割の一つは、「血管腫」の診断と分類である。1982年Mullikenらは、内皮細胞の組織学的検討に基づいて血管腫と血管奇形の鑑別について重要な報告したが[1]、これを発展させて1988年には「Hamburg分類」、1996年には「ISSVA分類」が採択された(表1)。ISSVA分類は、それまで渾沌とした「血管腫」の様々な呼称を避けて、できるだけ単純な共通言語を目指したものである。しかし本邦ではISSVA分類の概念はほとんど生かされておらず、治療方針の異なる血管腫と血管奇形に対する適切な診療の弊害となっている。その背景には、「血管腫」を体系的に理解したドクターが希薄な現状がある。

(表1)ISSVA分類(1996年ローマ会議)より改変
Vascular tumors Vascular malformation
Infantile hemangioma
 proliferation / involution, GLUT1 (+)
Congenital hemangioma
 RICH / NICH
Other tumors
 kaposiform hemangioendothelioma
 tufted angioma
Simple
 Capillary (C)
 Lymphatic (L)
 Venous (V)
 Arterial (A)
Combined
 AVF, AVM, CVM, LVM,
 CLVM, CAVM, CLAVM

今回の学術演題は、基調講演4題、口演81題、症例検討6題、ポスター52題と豊富な数で、基礎から臨床まで広く網羅された。血管形成・血管新生や原因遺伝子など病態解明に関わる多くの報告は、IVR医の私の理解を超えていたが、将来は分子遺伝学的な分類・診断も夢ではなさそうだ。以下、トピックスの一部を紹介したい。

血管腫では、幼児血管腫 (infantile hemangioma) の特異的な免疫組織学的マーカーとしてGLUT1 (glucose transporter) が注目された。GLUT1は増殖期から退縮期まで全時期の幼児血管腫の内皮細胞で高率に陽性を示す。Kasabach-Merritt症候群を合併する血管腫は、組織学的には血管腫と異なるkaposiform hemangioendotheliomaあるいはtufted angiomaという稀な血管系腫瘍であるというのがISSVAの見解である。また新たな亜型概念として、先天性血管腫 (congenital hemangioma) が提唱され、自然退縮するrapidly involuting congenital hemangioma (RICH) 及び退縮しないnon-involuting congenital hemangioma (NICH) の2通りがある。従って、幼児血管腫とこれら類似疾患や血管奇形との鑑別診断上、GLUT1の重要性が強調された。


図2 韓国グループとDr Yakes(中央)。
著者は左2番目。
AVMでは、アルコール塞栓術の話題が大きく取り上げられた。現地の病院から中継でDr Wayne Yakes(米国・デンバー)によるライブ・デモも行われた。Dr Yakes(図2)は、アルコール塞栓の先駆者として有名で、頭頚部・四肢の血管奇形4例が全身麻酔下に治療された。何れも直接穿刺でアルコール注入が繰り返されたが、1回の手技時間は短く、決して過度に塞栓しない様子であった。また、アルコール塞栓の功罪として米国主要2施設から合併症の頻度と対策についても報告された。Dr Yakesの施設では、最近2年間で血管奇形626例に2055回、計31,000mlのアルコールを使用した結果、一過性合併症(皮膚・神経障害、深部静脈血栓、感染など)の頻度が1回平均5%、1人平均16%、重篤合併症(皮膚壊死・永久神経麻痺・肺塞栓・心停止など)は、1回0.6%、1人2%であった。特に、心肺虚脱予防のための指標として、アルコール量は、ボーラス注入0.1ml/kg以下を10分以上の間隔で繰り返し、1回手技の総量は0.5ml/kgを超えないことが示された。一方、Boston Children's HospitalのDr Burrowsは、過去9年間61例のAVMに232回の治療を行った結果、SIR基準に基づいた軽度合併症が1回19%、1人39%、重度合併症は1回9%、1人36%と非常に高い頻度であった。局所の虚血性合併症は、経動脈的注入の方が直接穿刺や経静脈的注入よりも頻度が高く、正常動脈への溢流が問題と指摘された。他施設からは、心肺機能への影響に関連して、アルコール塞栓に伴う血中サイトカインや肺動脈圧の変動について報告されるなど、経験則だけに頼らない、より安全なアルコール塞栓法の確立に向けた努力が感じられた。私自身、アルコールの使用には多少躊躇もあるが、今後の導入の契機になると思われる。

ISSVAも最近ホームページを開設した。また、今年3月末の米国IVR学会(SIR)では初めて血管奇形のworkshopが企画されるなど、徐々に啓蒙も図られつつある。本邦でも、放射線科主体の血管腫・血管奇形IVR研究会が今年で6回を数えるが、今後は形成外科など関連学会と協力して、この難病の研究・診療に一層取り組む必要があると思われる。

今後のISSVAは、2006年がミラノ、2008年が発祥地ボストンでの開催が予定されている。将来アジアでの開催を目指して、日本からも多くの先生が積極的に参加されることを期待したい。

大阪大学放射線科 大須賀慶悟

(参考文献)
1. Mulliken JB, Glowacki J. Hemangiomas and vascular malformations in infants and children: a classification based on endothelial characteristics. Plast Reconstr Surg. 1982 ;69:412-22.



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