NEWS 2004.5.10



第33回 日本血管造影・IVR学会報告

平成16年5月7日・8日にセンチュリーハイアット東京で開催された、第33回日本血管造影・IVR学会に参加した。ゴールデンウイークの2日後からという、臨床医にとっては過酷な日程であったため、多くの会員はずいぶん苦労しての参加であったと思われる。しかし6日の評議員会は、開始時間が当初より遅らせて午後6時からとなったことで、60名以上が参加し、学会の抱える幾つかの問題点について、かなり熱心な討論が行われた。評議員会が盛り上がることは学会の活性度を占うバロメーターでもあるので、今後は是非とも時間を十分にとって、評議員が参加しやすい日程を考慮してもらいたいと思う。

今回の学会も、メタリックステント研究会・肝動脈塞栓療法研究会・血管腫血管奇形研究会と3つの会が併催されたのだが、会期がわずか2日間であったため、スケジュールは極めてタイトであり、聞きたい演題が重なって聞けなかったり、ポスターや企業展示を見る時間が十分にとれないという問題があった。本レポートも、聞けない演題が多かったので印象に残った点のみを記載する。来年は国際学会なので会期は4日間あるし、再来年からは昨年のように会期を3日とするようになるので、このような状況は少し解消されると思われる。

第9回肝動脈塞栓療法研究会は、一般演題を無くして2つのシンポジウムで構成された。この研究会に発表される内容はすべてIVR学会に発表できるのだから、それもよいと思う。最初のシンポジウムでは、国立がんセンター中央病院の福田治彦先生が、「TAE論文の批判的吟味」と題して講演されたのだが、これは極めて素晴らしいレベルの高い内容であった。教育講演などと重なって聴衆が少なかったのが残念である。まず前半では、統計学的分析や臨床試験の方法について、その限界や問題点を含めて比較的わかりやすく(といってもレベルの高さにクラクラするが)説明された。そして後半では、肝細胞癌に対するTACEの有効性について検討した過去の論文について、その問題点を統計学や臨床試験の立場から次々と指摘された。結局は、いずれの論文も少なからず問題を抱えており、本手技の有効性に関しては、いまだにあるとも無いとも結論づけられるだけの十分なエビデンスがあるとはいえないというのが、福田先生のご判断であり、おそらくそれが真実であろう。つまり、我々IVR医が肝細胞癌に対するTACEについて有効だと主張し、これを施行し続けるためには、やはりきちんとしたランダム化比較試験(RCT)をしなければならないということである。しかし同時に、現況でRCTを組むことが著しく困難であることにも理解は示されている。RCTでなくても、せめてプロトコールに沿ったprospectiveな真の臨床試験であれば、それなりのエビデンスにはなる。また例えば抗癌剤が本当に必要なのかとか、塞栓剤はどのようなものがよいのかといった「何となくそう思ってやっているけれども、未だに証明はされていない」幾つかの問題についてなら、RCTを組むのはより容易であろうし、そういうことから始めることでRCTに慣れることの重要性についても強調された。厚生労働省がん研究荒井班では、いつも荒井保明先生が厳しいことを言われるのだが、彼が長年にわたってJCOGの中で福田先生に鍛えられ、教えられてきたのであろうことがとてもよくわかった。なお、日本の肝癌研究会の膨大なデータについて、「アンケート調査で得られたデータに信頼性は無い」と明快に切り捨てられたこと、「RCTは倫理的に問題が多いと主張する医師がいるが、そういってエビデンスの確立されていない治療を続けることの方が倫理的に問題だというのが、現在のグローバルスタンダードである」と指摘されたことが、強く印象に残った。現実に難しい問題は少なくないけれども、少しずつでも改善していく必要性を痛感した。荒井先生が国立がんセンターに移動されることもあり、今後は日本のIVRが少しでも多く、世界に通じるエビデンスを発信していくことを祈っている。

「ステント治療のエビデンス」と題されたIVR学会とメタリックステント研究会の合同シンポジウムは、各演者が担当領域の過去の報告について、ある程度エビデンスレベルの高いものを中心によく勉強してその現状について報告され、教育的価値が高かった。そして、いまだに十分なエビデンスがない問題が少なくない現状を痛感させられた。

「IVR clinic success story」と題されたシンポジウムは、種々の形態で、独立した立場でIVRを施行されている6人の演者が、ご自分の現状について、かなり具体的に語られた。金銭的に必ずしも全員がsuccessされているわけではなく、膨大な借金を抱えておられる方や収入が激減された方もおられるが、何はともあれ、ほぼ全員が、楽しんで日々を過ごされているのがよくわかって嬉しかった。IVRに限らず、独立した放射線科医でその選択を後悔している人はほとんどいない。彼らの中には、病院を経営している者も、遠隔画像診断と並列でIVRを行っている者も、外来のみのクリニックを開いている者もいる。とにかく、放射線科医・IVR医にとって、仕事の選択肢が増えているというのが最も着目すべき点なのだと思う。

子宮筋腫のポスターセッションでは、4Fカテーテルによる塞栓術の報告があった。成功率は75%弱であり、1例は内膜損傷から塞栓不能となってしまっていた。TAEに習熟した日本のIVR医にとって、大半の症例を4Fで完遂するのは困難なことではない。しかし、良性疾患であるだけによけいに、合併症を避ける努力は最大限すべきであろうし、特に研修医のいる施設では、やはりルチーンでマイクロカテーテルを使用するのが安全だと感じた。また山近記念病院の佐藤哲也先生が、腺筋症に対するTAEの報告をされた。細かいゼラチンスポンジを使い、術後MRで十分な梗塞が得られた症例では、良好な予後が期待できるという主旨であった。金属コイルの使用や一部症例での片側卵巣動脈塞栓には異論のある医師も多かろうし、十分な梗塞が得られる率が筋腫ほど高くないのは残念ではあるが、本疾患の症状の重篤さや、子宮全摘しか他に選択肢のない患者さんのことを考えれば、ある程度の希望が持てる素晴らしい成績だと感じた。

招聘教育講演では、本年4月に設立された独立行政法人医薬品医療機器総合機構の木下勝美氏が「改正薬事法における新承認審査制度について」と題して話された。規制緩和や民営化の流れで、この分野も少しずつであるが改善の方向へと変わりつつあるのが感じられた。我々IVR医にとって、欧米で一般的な新しい医療機器がなかなか日本で認可が進まないのは大きな悩み・不満の種であるが、これは日本では審査官の数が米国FDAなどと比べて10分の1以下であることや専門的知識を持った審査官が少ないことが主たる原因と考えていたのだが、申請する企業側の薬事担当者の問題も大きいこと(専門知識に乏しい営業マンが薬事担当を兼務していて、会社に不在が多い事例さえあるという)が強調されていた。なるほど、厚生労働省側のみを責めるのは酷であろう。また医師など技術系職員を増やすべくこれを公募していることや、治験開始前の相談も可能なこと、また企業側から医療材料の提供を受けた上での医師主導治験が医療材料においてもできるようになる予定であることなど、将来的には少し希望が膨らむ内容であった。http://www.pmda.go.jp/を一度訪れてみて下さい。

なお、大田原赤十字病院の水沼先生が、IVR手技での患者の被曝量を計測・発表されていた。腹部TAEでの被曝量が平均1856mGyもあり、2例(11.8%)では3Gyを越えていた。これは驚くべきデータであり、あらゆるIVR医は自分の施設のおいて、患者の被曝量を計測してみるべきだと痛感した。

IVRコンサルタンツ 林信成

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