NEWS 2007.10.01


第7回子宮筋腫塞栓療法研究会報告

有限会社アールアイエス 加藤 明


 
会議場内
国際会議場外景

 子宮筋腫塞栓療法研究会(以下UAE研究会)は回を重ねて今年は第7回ですが、初めて東京を離れて関西(淡路島夢舞台)での開催(JSAWIとの併催)でした。「毎年同じような時期に開催されているし、集まる診療科が共通しているのだから、JSAWIと共催したら一度で済んでいいのではないか? 人も集まりやすいのではないか?」という発案でそうなったようです。この試みに対する私の感想は「あまりよろしくなかった」でした。UAEにあまり積極的でない産婦人科医や、普段はIVRに無関心な放射線科医でも、「同じ場所で会があれば今後のためにちょっと見てみるか?」という感じで多くの方が参加するのではないかと期待していましたが、結局そうはならず、むしろ不便さのためか例年いらっしゃる先生たちが来られなかったからです。

 さて、紙面の都合もありますので一般演題については印象に残ったものに絞って紹介します。

 のっけからインパクトがあったのが、「UAE後妊娠分娩に至った自験例2例とこれまで判明している妊娠出産例のレビュー」でした。この発表によれば、
(1)本邦でのUAE後妊娠出産例の報告は今回の2例を含め24例、海外では146例で計170例。
(2)本邦でも海外でも、帝王切開率の高さと産褥期大量出血例の多さが目立つ。特に産褥期大量出血例が多いことは問題である。
(3)本邦・海外合わせ13例の産褥期大量出血例があったことが判明している。そのうち8例は弛緩出血、1例が前置胎盤、1例は不明、3例は癒着胎盤によるもの。
(4)一般的な癒着胎盤の頻度の報告は1/540〜1/70,000と幅があるが、いずれにせよ170例中3例なのでUAE後の癒着胎盤発生率はかなり高い。
(5)癒着胎盤の原因としてUAEによる子宮内膜の壊死・欠損が考えられる。
(6)UAE後の妊娠・出産については安全性を説明する十分な根拠はなく、そのような症例については慎重に対応することが重要である。
だ、そうです。

 恥ずかしながら、癒着胎盤が恐ろしいものであることは、日本の医療界を揺るがす福島県立大野病院産婦人科医逮捕事件を通じて初めて知りました(この事件の詳細はインターネットで検索すればすぐにわかります)。その発生頻度は上記の通りでしょうが、他の文献によると臨床的に問題となる大出血を伴うような癒着胎盤は5万分娩に1例と極めてまれなのだそうです。一産婦人科医師が年間200分娩を取り扱うとしても必ずそれにあたるには250年臨床を続けなければなりませんので、実際には一生のうちに一回もそれに当たらない可能性もあるということです。そのような極めてまれな状態がUAE後には170例のうちに3例生じているわけですから、これは無視できない問題です。UAE後にどうぞご自由に妊娠・出産して構いませんと手放しで言うことはできないでしょう。

 発表した施設の批判になってしまいますが、どうしても取り上げるべきと思った合併症の演題を次にご紹介します。
 症例は40歳代の女性で、演題発表施設のMRI検査で「多発子宮筋腫の診断」を受けています。同施設の産婦人科外来で手術が勧められましたが、患者さんはUAEを希望されたため放射線科に紹介されています。
 その治療前のMRIの画像を見て驚きました。筋腫と診断されたものの1個は広い範囲が壊死しており、壊死部には明らかな出血が見られていました。肉腫がかなり疑わしい画像所見です。おまけに血液検査でLDH軽度高値でした。しかし肉腫の可能性はレポートで示唆されず、多発筋腫の診断のもとに患者さんはUAEを希望され、最初の治療のタイミングを逃してしまっています。さらに経過観察にも問題がありました。UAE後1ヶ月でMRIが撮影されていましたが、すでにその時点でviableな部分の増大が見られていました。この時点で前回画像とLDH値を見直して肉腫を疑うべきでしたがそのまま経過観察になっています。そして半年した時点で腫瘤が明らかに増大しLDH値が著明高値となって初めて肉腫の診断に至っていました。
 この一連の経過でわかるのは、この施設ではUAEを行うにあたって、対象病変がひょっとすると肉腫かもしれないということを最後まで検討していないということです。UAEの特殊性を理解していないと言わざるを得ません。手術と異なりUAEでは組織検査が全くできないので、術前も術後経過観察時も病変が肉腫である可能性を画像診断で検討し続ける必要があります。ぜひ、UAEに携わる方はこの問題を常に念頭において適応決定や経過観察を行ってほしいと思います。

 その他にはジェルパートをUAEに使った結果の発表に興味を惹かれましたが、結論は「スポンゼルUAEに比較して高価で調製がめんどうなので、もう使わない」ということでした。ちょっと検討のポイントがずれています。スポンゼルに比較して高価であることも調製が面倒であることもUAEを行う前からわかっていることであり、詳しく検討すべきはその安全性と治療効果であるべきです。それらはひと言で「スポンゼルUAEと特に差はなかった」で片付けられていて、物足りない内容でした。

 シンポジウムは三題ありましたが、まず日本でのUAEのパイオニアである済生会滋賀県病院の勝盛哲也先生が「UAEの現状」というタイトルでお話をされました。Ravinaらの報告を受け、本格的にUAEが行われ始めて10年余、世界で25万例に行われたそうです。それから得られた知見をご自分の経験を交えて淡々と紹介されましたが、全体を通して聞いた私の感想は「子宮全摘出に替わる治療として、まあ悪くはない」です。
 様々な新治療が魔法のような効果を期待されて現れては消えていく、ずっと繰り返されてきたことです。UAEも当初は、治療後筋腫は全て完全壊死を生じるので再発しない、もしくは筋腫核出術よりも再発率が低い等、過大な期待をかけられていました。また正常な組織の障害もほとんど生じない、よって将来的には挙児希望者への適応の拡大可能という期待もありました。しかし、魔法の治療などこの世に存在しないわけで、ある一定の割合で症状の再燃(再発)が生じること、場合によっては正常内膜の障害も起こりうること、また塞栓後の再治療(外科治療含む)が全摘術に比較し高率であることも明らかにされています。それでもなお、「治療効果が高い入院期間が短い、回復期間が短い」など、お腹を切らない治療を望む女性には魅力的な選択肢であることが新たなエビデンスをもって示されました。

 シンポジウムの最後は「UAEの問題点と今後の展開」というタイトルで東京慈恵会医科大学附属病院放射線医学講座の貞岡俊一先生が講演されました。UAEの問題点には適応や手技の問題点もありますが、今回は「保険適応」「ゼラチンスポンジ」の問題にフォーカスしてお話されました。貞岡先生は、インターネット上に置かれた公的な資料、IVR学会で保険適応の問題に取り組んでおられる先生方からの情報、患者の会の方などから得られた情報などを総合されて、UAEの保険適応に関する紆余曲折を細かく、分かりやすく解説してくれました。
 最後には、「ゼラチンスポンジでのUAEを保険適応にするのに近道はない、直球勝負で臨床試験を行うしかない」という結論に至るわけですが、製薬会社のやる気のなさにつきあたります。スポンゼルにせよゼルフォームにせよ、利益を生み出さないお荷物の製品であり、製造そのものを本当は止めたいのに、お金のかかる臨床試験なんて勘弁してよというのが企業側の論理らしいです。まあそこまではわかります。しかし、ご存知のようアステラスはスポンゼルの添付文書に「血管内投与禁忌」の文言を明確な根拠なく“自主"改定の末に入れてしまいました。新発売の「ジェルパート」を売らんがためと思われます。肝細胞癌塞栓用の塞栓物質は生まれましたが、それ以外の疾患に使える塞栓物質を日本から無くしてしまったわけです、一製薬企業のささやかな利益のために。そんなことが許されて良いのでしょうか?
 この事情を貞岡先生の講演で初めて知ったフロアの医師からは「アステラスの不買運動をしよう!」と気勢が上がっていました。北風政策がよいのか太陽政策がよいのか、私にはわかりませんが、いずれにしてもUAEの保険適応については製薬会社が鍵をにぎっており、しかもロックしたまま開けるつもりがないという問題点が明らかにされました。「この状況を打破するためには、ゼラチンスポンジのみに固執するのではなく、海外で頻用されているEmbosphereなどと絡めた臨床試験を行う必要があるのではないか?」という提案がフロアからなされました。確かにこの袋小路から抜け出すためには戦略の転換が必要かもしれません。

 第1回から今回までUAE研究会を皆勤で聞き終えて、「一区切りついたな」という感慨を持ちました。まだいろいろな課題は残されていますが、まあだいたいわかったという感じです。来年はどうするのでしょうか。杏林大学の似鳥俊明先生は閉会の辞で来年の日程も場所もはっきりとは言われませんでした。またJSAWIと併催するのか、別個にやるのか・・・。個人的には別個に開催してほしいです。冒頭にも書いたようにJSAWIとの併催にはメリットは感じませんでしたし、東京での開催のほうが便利でよいと思います。
 研究会のあり方についても意見があります。一般演題の形式はあってもよいですが、そろそろ研究会主体の臨床研究を開始するための会議を開いてほしいです。治療を行う前に事務局に症例を登録して、治療後の経過を事務局側が追跡して結果を確認する前向き研究―そう、北米を中心に行われたFibroid Registryのようなことをぜひ始めてほしいです。多施設前向き研究でないと、本当の奏功率や合併症発生率はわかりません。それをしないのであれば、この研究会の役割はもうあまりないのではないかと思います。

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