NEWS 2007.9.18


CIRSE 2007報告

IVRコンサルタンツ 林 信成


2007年9月8日から12日にかけて、ギリシャのアテネにて開催されたCIRSE2007に参加した。アテネまでは日本からの乗り継ぎが良くないためか、昨年のローマに比べると参加者がやや少なかったようである。といってもSIRよりはまだまだずっと多いし、SIRには行かないけれどもCIRSEには必ず行くと行ったCIRSE常連組も少なくない。ポスター発表が圧倒的に多くてCIRSE全体の中でも目立っている状況は変わらないが、今年は口演発表も少なからずあったし、座長も増えた。さらには日本人が担当するワークショップも設けられた。少しずつではあるが、日本のプレゼンスが向上しつつあるのが肌で感じられてとても嬉しい。今後は会場でもっと質疑応答に参加する人が増えてくれることを祈るばかりである。いつもながら学会場ではほとんど姿を見かけない人が少なくなかったように感じられた一方で、毎日早朝から遅くまで熱心に聴講されている若いIVR医たちも大勢見かけた。同僚に迷惑をかけている以上、できるだけ頑張って勉強してこようという姿勢が感じられてとても頼もしく思った。いつもながら並行して多くのセッションが走った(今回は前回よりやや改善されていた)ので、出席できて興味のあった話題についてのみ各論を述べていく。

会場入り口
 
入り口ホール
企業展示場
Film Reading Session
インターネットコーナー
EPOS会場
今年はブルーのTシャツ
Foundation Partyのお出迎え
パルテノン神殿
ヘロド・アクティス音楽堂
アテネ市街とリカビトスの丘
古代アゴラ.
アテネ大学
走る人のオブジェ
第一回オリンピック会場
ホテルのプールでは泳ぐ人も.

肝腫瘍
まず肝細胞癌だが、この分野に関しては、ずっと恐れていたことが現実となりつつある。日本からエビデンスレベルの高い論文が生まれないうちに、欧米で次々と新たな治療法が試みられ、それがまた、最初のうちこそ技術的に低レベルであったり、単なる企業の新製品の治験にしか過ぎなかったものが、今では技術的にも格段に向上し、経験も豊富になり、そしてエビデンスレベルの高い論文が次々と発表されようとしているのである。
バルセロナのDr.Llovetの講演は、今までで一番わかりやすく、また内容も衝撃的であった。ご存知の方も多いと思うが、彼らのグループは、「いわゆる切除不能肝細胞癌」を、中間群・進行群・終末期群の3つに分類している。中間群にはあらゆる種類のIVR治療が導入されている一方で、終末期群には勿論積極的な治療は施されない。今回驚かされたのは、IVR治療によって画像上は有効性が示されてもsurvival benefitの証明は困難と思われる「進行群」において、決定的ともいえる試験結果が示されたことである。分子標的薬であるSorafenibという新たな薬剤を用いたランダム化比較試験において、コントロール群に比べて有意に高いsurvival benefitが証明されたのである(SHARP試験;ASCO 2007にて発表ずみ)。興味深いことに、画像診断上の奏効率は数%しかない。しかし、腫瘍医にとって何よりも重要なエンドポイントであるsurvival benefitが、エビデンスレベルIAで証明されてしまったのである。彼は、「今後は中間群も含めたあらゆるランダム化比較試験においては、この薬剤投与群をコントロールとして用いるべきである」と述べていた。エビデンスレベルIAが出てしまった以上、これはもう仕方がないことなのかもしれない。
数年前から話題になっていたものの、臨床的な有用性には疑問を持つ者も少なくなかったドキソルビシン溶出性BeadBlockに関して、アテネ大学から驚くべき中期成績が発表された。切除不能肝細胞癌を対象とした成績で、生存率は何と、24ヶ月91%、30ヶ月88%という高さだったのである。詳細な適格基準は聞けなかったが、スライドを見ればいわゆる早期肝細胞癌はひとつも無かった(ハイリスク患者を対象としたスクリーニングプログラムが発達している日本以外で、早期の肝細胞癌ばかりを集めることは困難だろう)。呈示された症例はいずれもまあまあの大きさであったし、数本の栄養動脈をきちんと超選択的に塞栓して治療していた。切除不能との判定基準や技術的な問題について、突っ込みどころがないか幾つか質問したのだが、驚くほどスキのない自信に満ちた真摯な答えばかりであった。リピオドールは用いておらず、塞栓の程度はやや弱めである。つまり「腫瘍濃染がほとんど消える」ところを塞栓のエンドポイントとしているとのことであった。これについても質問すると、「完全に腫瘍濃染を無くしてしまったり栄養動脈を閉塞させると、次回の治療が困難になるから」という答えであった。阻血効果はほどほどに、抗癌剤に大きく期待するという方向なのだろう。実際、用いられているドキソルビシンの量は信じ難いほど多かった(そのうちどれだけが溶出するのか不明)。塞栓が弱い割に合併症として膿瘍が多かったのはそのためかもしれない。また両葉に多発している肝細胞癌の場合は、片方をまず塞栓し、2週間後にもう片方を塞栓するとのことである。その場合も「腫瘍濃染がほとんどなくなる」というのがエンドポイントであることには変わりない。こうして書くと、「そんなの当たり前でしょう?」と感じられ、なぜ私がこれほどまで興奮しているのか不思議な読者の方も少なくないかもしれない。理由は、「彼らに追いつかれてしまった」という焦燥感なのである。数年前までは同じような質問をすると、欧米のIVR医たちの答えは相当に滅茶苦茶だったし、経験不足がすぐに露呈した。技術的にも未熟この上なく、そもそも腹部でマイクロカテーテルを使うという発想すら持っている人が珍しかった。しかし、今はそうではないのである。
さらに欧州では、この薬剤溶出性BeadBlockによるTACEと、薬剤を動注した後に薬剤を含ませないBeadBlockで塞栓するTACE(彼らはこれをconventional TACEと定義している)を比較する多施設共同ランダム化比較試験(Precision V)が、かなり大規模に進められており、遠からずエントリーが終了するとのことである。その結果が出てしまえば、この治療法がまたゴールドスタンダードになる可能性があるし、次には間違いなく、前述したSorefenib全身投与とのランダム化比較試験が企画されるであろう。JIVROSGでは日韓共同のprospectiveな臨床試験が企画されているが、彼らを大きく上回るデータが本当に出せるのかどうか、心配になってきている。繰り返しになるが、彼らはこの数年間で飛躍的に進歩してしまった。技術も経験も、私達が数十年かけて築き上げたものにほとんど追いついてしまったのである。まさにDog Yearなのだが、デバイスと画像診断の劇的な進歩を考えれば、悔しいけれども受け入れざるを得ないのが現実なのだろう。
Biosphere Medical主催のシンポジウムでは、IGTゲートタワークリニックの堀先生が開発されたSAPに関する演題が相次いだ。この製剤は、欧州ではHepasphereという名で販売され、米国ではAVMの治療目的で認可されたためか4倍大きくなると言う意味でQuadrasphereという名で売られている(実際には多くが肝臓に使われているようである)。堀先生のBland Embolizationについての講演は、いつもながらクリアカットであった。進行癌を対象として3年生存率が50%なのだから、成績も悪くはない。ただ単一施設からの報告であるし、正式な臨床試験ではないため、腫瘍医からの評価は難しいかもしれない。市販品ではなかったこと、切除不能肝細胞癌患者の背景があまりにも多彩であったことなどが、日本できちんとした臨床試験ができなかった大きな理由だろう。今や製品化されたのだから、逆輸入してでも正式な臨床評価の道筋に載せて欲しいものである。欧州では既に、Hepasphereにドキソルビシンを含ませて薬剤溶出性塞栓剤として用いるTACEが始まっている。こちらは議論できるほどの長期成績がまだ出ていないのだが、すでにこの方法と「Embosphere・ドキソルビシン・リピオドールによるconventional TACE」とを比較するランダム化比較試験が始まろうとしている。
なおHepasphereによるTACEにAvastinの静注を併用する治療法に関する臨床試験は、成績が思わしくなく、プロトコールを変えて再チャレンジするようだ。失礼ながら私には、「理論的には良くても臨床的には駄目」な治療法の典型のように思えた。
今年のSIRでも話題になったので以前にも報告したが、治療効果の判定基準の問題はますます大きくなってきている。RECISTとEASLで縮小率が大きく異なる症例がいくつも呈示された。さらには論文で頻繁に使われる「造影効果の有無でviabilityを判定する」ことにも疑問が呈された。ダイナミックCTの早期相で明らかに濃染が見られた部分が、患者が追加治療を拒否したことで経過観察すると、次第に消えてしまう症例が20%もあるという。あとで質問をしたら、実際には20%よりずっと多いだろうとのことであった。ただこれは講演中には触れられなかったものの(といっても演者がDr.Salemなのでそうだろうと察してはいた)、実は放射性イットリウム動注症例での話だった。しかし実際のところ、我々がダイナミックCTの早期相で残存腫瘍と判定して追加治療をしている症例の中には、同様の例がある程度は含まれているのではないかと思う。ただ、だからといって全例を生検するのは非現実的だし、また生検にそこまでの信頼性があるかどうかという問題もある。MRIの拡散強調画像やPETを活用しようという試みもなされているが、コストパフォーマンスを考えるとほとんど非現実的であろう。JIVROSGにおいても、種々の効果判定基準がどの程度予後を反映するかについての試験が計画されている。この問題は、まさに世界中の研究者たちが悩んでいる問題なのだということを改めて実感した。
なおイリノテカンを溶出するBeadBlockによる大腸癌肝転移の成績も発表され、驚くほど優れていた。全身化学療法とのランダム化比較試験が進んでいたが、「合併症が多い」「コストが異なる」などの理由で中止に追い込まれたようである。合併症といっても発熱や痛みだけだったし、コストも大きくは変わらなかったので不思議だった。演者も「こんなことで中止させられるのは理不尽だ」と不満を述べていた。

局所アブレーション
これは2つのSpecial Sessionに出席した。まず臓器別のセッションだが、腎臓については、もはや有効性について疑う者は誰もいない。ただ、進行の緩徐な症例も少なくないので適応に慎重であるべきこと、尿管損傷などの合併症をどのように防ぐか、RFと凍結凝固療法の比較、また凍結凝固療法は画像ガイド下に行うべきか腹腔鏡下に行うべきかなどが論じられた。
肺のRFは、今でもハイリスク群が適応となる場合が多いためか、腎臓ほどの成績は出ていない。Stage IAにおける5年生存率は46%であった。しかし、適応となる患者は少なからず存在するので、JIVROSGのI/II相試験のデータが出たら、何としても第III相試験を行い、他の治療法との比較や生命予後への貢献について検討できればと思う。
前立腺は、場所の問題からか凍結凝固療法の話が中心だった。局所制御率は100%であり、勃起能も87%の症例で保たれるという。この分野は「治療対象となる前立腺癌」の絞り込みをどうするかという問題や、急速に進歩して幾つもの選択肢がある放射線照射との優劣が問題となろう。
もう一つのセッションは、比較的新しい技術に焦点が当てられた。最初はマイクロウエーブである。これはRFより古いのだが、一時は捨てられていたものが、局所効果の高さからデバイスが改良されてまた治験が進みつつあるようである。2つ目は凍結凝固療法で、以前から何度も報告しているように、治療効果は高いし、安全性もRFより高そうである。問題はマイクロウエーブも凍結凝固療法も、針が太すぎることだろう。乳腺の生検もそうだが、どうも欧米のIVR医の針の太さや数に対する感覚にはついていけないものを感じてしまう。
最後は収束超音波(HIFU)であった。まともなデータが出始めているのはまだ子宮筋腫だけであるし、やはり癌には難しそうな気がする。面白いと思ったのは、不整脈のアブレーション用の製品が作られていることだった。なるほど安全性は少し高いかもしれない。なおElectropolationについても軽く触れられたが、これについてはまだ実験段階である。興味のある方はGlobal IVR Trendsを参照下さい。

頚動脈ステンティング
欧州では米国ほど神経放射線インターベンションが独立していないためか、また頚部は境界領域にあたるためか、神経系と一般IVRをともに手がけている放射線科医や、脳内までは手を出さなくても頚動脈ステンティングには興味を持っている一般IVR医が少なくない。会場は初日の朝早くであったのに満員に近かった。遠位塞栓防止デバイスについては、ある程度の賛否両論があり、使うべきであることを証明したレベルの高いエビデンスは出ていないものの、やはり「使うのは当然だろう」という方向に揺るぎは無いようである。ただどのようなデバイスが最も優れているかについては未だに結論は出ていないし、どのデバイスも使いこなせるまでにかなりのラーニングカーブを必要とする。次々とデバイスの改良が重ねられている分野であり、細かな改良については認可が簡単になるシステムの導入が強く望まれる。なお頚動脈ステンティングのCEAと比較しての有効性に関しては、結果が相反するレベルTエビデンスが幾つも出ている。これこそが大きな問題であろう。その理由は、エンドポイントや適格条件などが試験によって微妙に異なっているからでもあるが、「頚動脈ステンティングの推進者が中心になった試験と、CEAを行っている血管外科医が中心に計画した試験で結果が相反している」というのが実情なのである。高齢の無症候性患者に対しては内科的治療が優先するだろうというのがコンセンサスになりそうだが、狭窄の程度や種類・また患者のアクティビティーによっても左右されるであろうから、明確な線引きは難しい。

UAE
これについては、今回はほとんど新しい知見は無かったように思う。欧州でも登録試験が進んでいるし、手術とのランダム化比較試験も一部でなされている。しかしこれらは、真実の追求というよりは患者への説明や保険償還の確保(認められている国とそうでない国がある)が主目的のように感じられる。大雑把に言って80%の症例で手術が回避できるが、それを充分とみるか不満足とみるかは患者サイドが決めることといった感じで、婦人科医との戦いも手打ちになりそうである。なお、UAE後の妊娠例はどんどん増えているようで、流産の症例は少し多いものの、満期出産例もかなり蓄積されてきた。卵巣動脈の問題や大動脈造影の必要性などについてはすでに多くの論文が出ており、「Global IVR Trends」を参照されれば、それらと大差ない発表ばかりであった。

下肢動脈
この領域では、ステントとPTAを比較するランダム化比較試験がいくつもなされてきたが、最近までステントの有効性を証明できた試験はなかった。例えばSIRROCO試験は中期的には有効性が否定されてしまったし、FAST試験でも全く差は見られなかった。その一方で、この領域ではステント破損の問題がクローズアップされてしまった。しかし遂に、Absolute試験において、一期的ステント留置の方がPTAプラス必要に応じたステント留置術に比べて、開存性が有意に優れているという結果が示され、それが昨年NEJMに掲載された。さらにその効果が24ヶ月後でも保たれていることが今年になってCirculationに発表された。またRESILENT試験においても、経過観察期間はまだ12ヶ月であるが、有意差が示されている。確かに浅大腿動脈の中でも十分に機能するように、ステントがさらに改良されたのが大きいのであろうが、何故に試験によってこれほどまで結果が異なるのかが少し不思議であった。演者が示した一つの解答は、「FAST試験では病変の平均長が約4.5pであったのに対し、Absolute試験のそれは約10pであったのが大きな理由だろう」とのことであった。なるほどそれだけ長い症例であればPTAよりは優れているだろう。ただそれが、外科手術や内科的治療と比べてどの程度有効なのかについては、まだ議論の余地があろう。この結果に力を得て片っ端からFull Metal Jacketの症例を積み重ねていく臨床科が出てきそうで心配である。浅大腿動脈は特殊な血管であり、やはりこの動脈に関しては、あらゆる方向への圧力に対して長期に耐えられることが証明されたステントでないと、簡単には治療を正当化できないのではと思う。なおカバードステントに関しては、5年で55%という優れた長期開存率が示されている。

Controversy Session
これは2日目と最終日の2回、計6テーマが取り上げられた。毎年、最も楽しみにしているセッションの一つだが、今年は正直言ってあまり面白くなかった。
1.B型大動脈解離はIVR治療の対象か?
これは、積極的にIVR治療するべきか内科的治療で充分かという問題である。合併症が生じているような症例では手術かIVRが必要なのは当然だし、落ち着いた問題のない例は内科的治療でも充分だろう。問題はその間にある症例をどうするかなのだが、これについてはその症例個々の評価やその施設でのIVR治療の技量によっても左右されてしまう。合併症さえ起こさなければ積極的な治療が正当化されると思うのだが、それだけの技術を持った施設数はまだ少ないし、充分な長期観察のデータがまだ得られていないことも事実である。デバイスもさらなる改良の余地を残しているだろう。会場の投票ではほぼ半々であった。

2.TACEかBland Embolizationか?
TACEの有効性を高いエビデンスレベルで初めて証明した論文は、抗癌剤の有効性については否定している。また堀先生は症例にもよるが、SAPによるBland Embolizationを積極的に推進しておられる。しかし、一般的な標準は? と聞かれると、まだまだ日本のほとんどのIVR医はTACEを選択するだろう。会場の反応も、ややTACEに賛成する者が多かった。

3.腎動脈ステンティングに遠位塞栓防止デバイスはルチーンで使われるべきか?
これはSIRでも同様のディベートが行われた。今回は、会場の投票はほぼ半々であった。SIRでは、施行者・施行症例数が多いことから手痛い経験をしたIVR医が少なくないからだろうか、使うべき(使うようになりたい)という参加者が圧倒的であった。最大の問題は、安価で使いやすい、腎動脈専用のデバイスが無いことであろう。そしてさらには、そもそも腎動脈ステンティングはどのような症例に正当化されるのかという根本的問題が、実はいまだに解決されないままである。

2回目のセッションは、肝細胞癌・肝転移・腎腫瘍それぞれについて、手術とIVR治療のどちらが優れているかというもので、投票も行われず、内容も陳腐で面白くなかった。どれをとっても進行度や場所によって個々に判断すべきだし、術者の技量にも大きく関わっている。早期肝細胞癌に関してはもはやIVR治療が標準となりつつあるし、腎腫瘍も今後はますますIVR治療に取って代わられていくということに異論は無いだろう。問題は転移性肝癌である。この疾患ではIVR治療の有効性が今ひとつである上に、全身化学療法の進歩が著しい。さらには前述のような薬剤溶出性塞栓剤による治療も治験が始まっている。残念ながら日本のお家芸のリザーバー動注療法は全く顧みられていないが、エビデンスレベルの高い論文が出ていない以上、仕方のないことだろう。また肝転移は、外科手術における術者の技量による差が極めて著しい。特に肝細胞癌の手術が激減した現在ではさらにそうであろう。NHKの「プロフェッショナル」で幕内先生の手術症例を見た人たちは、みんな驚嘆したに違いないだろうから。

Gruentzig記念講演
現代の金属ステントの産みの親であるDr. Palmazが講演された。昔彼がSIRで行ったDotter Lectureは、私が知る限り唯一、終了後にスタンディングオベーションが与えられなかった講演である。ただそれは、内容が悪かったからではなく、徹底した詳細な研究の報告であり、ステント研究のオタクで無ければついていけないようなレベルであったからだろう。今回はその反省からか(?)、非常にわかりやすい内容でとても良かったと思う。彼が一番訴えたかったのは、「企業はもっと研究開発にお金を出しなさい、医師はもっとそういう研究を求めなさい」ということだったと思う。金属ステントが使われ始めて20年になるが、彼に言わせれば、最近10年間はほとんど進歩がみられないという。そして対照的な例としてエレクトロニクス関係の会社を挙げ、絶え間なく研究開発に潤沢な資金を注ぐことによって、コンピューターの能力が継続的に向上してコストが下がっているグラフを見せた。問題は、医療関係のデバイスを開発する際には、特に現代では一般家電とは比較にならない大きなリスクが伴うことである。最近は、インターネットの検索エンジンを使うと、関連する企業の広告が上の方に表示されるのはご存じだろう。米国で「心臓ステント」と入力して検索すると、上段に弁護士事務所の広告が並ぶそうである。「ステントによって障害を受けませんでしたか? 私たちが訴えて賠償金をとってあげましょう」という意味である。米国の弁護士たちは本当にとんでもない連中である。

Film Reading Session
今回は、「ギリシャの神々とヒーローの対決」と銘打たれ、例えば「ポセイドン対オデッセイ」という対戦形式で行われた。昨年があまりにも素晴らしすぎたためか、今年はたいしたことなかった。症例も陳腐なものや治療方針が決まりきっているもの、臨床情報が限られすぎて搾りきれないものなど、面白くないものが大半であった。多くのパフォーマンスを入れながら1時間に8題というのがもともと無謀だろう。米国MGHのDr. Mullerも参加していたのだが、彼がブッシュ大統領を馬鹿にしたジョークを連発するシーンが一番受けていたのではないかと思う。彼に限らず、SIRでも最近は、講演の中でブッシュがジョークのネタになっていることが少なくない。当然とはいえ、米国人がこれほどまで自らが選んだ大統領をこきおろすのは本当に希有な現象だと思う。世界が何と言おうと、「自分たちは正しい、自分たちが選んでしまった大統領には敬意を払う」という図式が、ブッシュによって遂に崩れ去ったのを実感する。ところで学会最終日の朝起きてテレビをつけたら、日本の総理大臣の辞任が報道されていた。「政治の貧困は、まだまだ日本が上手だ」と絶望的になってしまった。

試験デザインと薬事承認
これは面白いテーマであると感じて参加したが、予想通り参加者は少なかった。最初に企業の関係者が薬事承認までに至る道筋や市販後調査について解説し、次いで欧州のCEマークに関する講演、そして米国のFDAによる承認に関する講演が続いた。一番知りたかったことは、どうして欧州ではこれほど承認が簡単な一方で、米国では著しく困難なのかということだったのだが、それについて明確な解答は得られなかった。少し気になったのは、米国における適応外使用の問題である。ご存知の人も多いと思うが、米国では医師の判断による適応外使用が広く認められている。例えば動脈ステントにしても、その大半は胆管ステントとして承認されているものである。裁判になっても、それが標準的な治療法であって、それに関する文献などが十分にあれば不利になることはあまりない。しかし、その一方で、適応外使用のデバイスで問題が生じた場合、FDAは勿論のこと企業も一切責任を負わない。最近はそのような症例が余りにも増えすぎたことで、SIRでは全会員にメールを送り、「適応外使用であることを必ず患者に伝えてインフォームドコンセントを得る」ように勧めている。現実に、長さ20cmものステントが胆管ステントとして承認を受けたこともあり、さすがのFDAもこれは異常な事態だと感じているようである。血管用として承認を受けるためには極めて高額の費用と長い時間がかかってしまうことを考えると、企業が本来の適応ではない分野でとりあえず申請する気持ちは理解できないではない。しかし、こういう不条理がいつまでも続くことの方が間違っているだろう。
CIRSEでは、米国や日本では認可されていない面白い新しいデバイスを見るのが楽しみの一つなのだが、良さそうなデバイスを見つけて販売している人に日本への導入予定について尋ねると、「日本と米国だけは、承認にお金と時間がかかりすぎて無理だ」と返事されることが少なくない。ちなみにテルモのブースを訪問すると、血管ステントも大動脈ステントグラフトも薬剤溶出性塞栓剤も展示されている。特に動脈用ステントは完全に日本で開発されたものである。それが日本で使えないという現実は、哀しくてならない。
なお企業が主導する臨床試験や市販後調査には、統括する医師への資金提供の問題も残る。タミフルの副作用に関する検討委員会の責任者が関係する製薬会社から研究費を受けていたことを理由に委員から外されたのは記憶に新しいだろう。しかし、現実に国からの予算が極端に少ない我が国では、大学の研究は企業の献金によって大きく支えられている。こういうことでバイアスがかかってしまうリスクをどうしたら避けられるかについて質問したところ、「研究をするにはお金がかかるのだから仕方が無い、問題はどこまで透明性を高めるかである」との予想通りの答えであった。透明性の程度や研究費の問題は本当に難しい。

以上、極端に新しいことが多いわけではなかったものの、今回はかなり色々な分野が聴講できたし、欧米の流れを充分に把握できた。危機感がつのったことも事実だが、全体としてはとても満足感のあった学会であった。JIVROSGがますます気を引き締めて取り組むべき課題の多さを痛感しつつ、帰途についた。
なお、全体を振り返る座談会を最終日に開きました。その内容は追ってRadFan誌に掲載されますので、是非ともご覧下さい。


 

 

HOMEへ戻る


Copyright 2003-7 Medical Eye, All rights reserved.
●お問い合わせは eda@medical.email.ne.jp