ISYA、Seminar
in Chicago 2003 Report
もう一つのRSNA 1
今年もシカゴにて北米放射線学会(RSNA)が2003年11月30日から12月5日まで開催された。RSNAといえばMcCormick
Placeでの数多くのポスター発表やオーラル発表、そして巨大なtechnical exhibitなどが頭に浮かぶが、RSNAのProgram
Bookには載っていない"もう一つのRSNA"がある。RSNAの時期にあわせてMcCormick Placeの外で開催される種々のセミナーがそれである。本稿ではそれらの中からIntroductory
Seminar for Young Academics(ISYA)、タイコ ヘルスケア ジャパン(株)主催のSeminar
in Chicago、エーザイ(株)主催のEvening Seminar in Chicagoなどを取り上げるが、分量等の都合によりEvening
Seminar in Chicagoは次号(4月号)に"もう一つのRSNA 2"として掲載させていただくことにする。
Introductory
Seminar for Young Academics
(ISYA) |
RSNAがスポンサーとなり、academic research を奨励する目的で米国のレジデント向けのセミナーが14年前より開催されていたが、数年前よりその門戸を外国人にも広げてIntroduction
to Research for International Young Academics (IRIYA)というセミナーが開かれるようになった1)。今回のISYAはその日本版ということで開催された第1回のセミナーで、12月2日の夕方にHyatt
Regency Chicagoにて約2時間半にわたって開催された。そのプログラムを表に示すが、大変素晴らしい内容であったため、印象記というよりもその内容をなるべく忠実に再現することに務めつつ、筆者の感想も交えながら以下プログラムに沿って述べたい。
Introductory Seminar for Young Academics〜プログラム
16:30-
17:50 |
開会の辞(Beth Israel Deaconess Medical
Center, 幡生寛人)
司会(Beth Israel Deaconess Medical Center, 西野水季)
Part T:Academic Radiologyにおける方法論
講演 1 : なぜ論文を書くのか (京都大学 富樫かおり)
講演 2 : よい論文の書き方 (京都市立病院 早川克己)
講演 3 : 書いた論文を点検する (BIDMC 幡生寛人)
講演 4 : 効果的なpresentationの方法 (東京大学医科学研究所 南 学) |
18:00-
19:00 |
Part U:Academic Radiologyにおける喜びとは?
ゲストパネリスト(神戸大学 杉村和朗)
モデレーター(幡生寛人・西野水季)
デイスカッション・質疑応答(講師、参加者、observerを交えて) |
なぜ論文を書くのか
京都大学 富樫かおり先生
富樫かおり先生は、"なぜ論文を書くのか"というむずかしいテーマについて、ご自分の体験を含めてお話をされた。
■ 臨床と研究の違い
臨床は職業であり患者さんへの奉仕(サービス)であって人の役に立ったということが実感されやすい。一方で研究(academic
radiology)は患者さんの役に立っているということが直接には実感されにくく、このことがacademic
radiologyにとっつきにくくしている原因の一つではなかろうかと述べられた。
「論文を書くことはいわば趣味であり、興味のおもむくままにやればよいが、趣味でも本格的にやると厳しいことやつらいことがあるのと同じように、研究にも厳しいことやつらいことがある。要は研究を趣味、すなわち楽しいと思えるようになるかどうか…そこがacademic
radiologistになるかどうかの分岐点のような気がする」。そうおっしゃった言葉は筆者には大変、印象的であった。
■ なぜ論文を書くのか
"なぜ論文を書くのか"…この答えを探すべく、富樫先生ご自身が某日、京都大学の廊下ですれ違った同教室の放射線診断医11名に"不意打ちアンケート"を実施、「あなたは論文を書く方かそれとも書かない方か?
そして書く(or 書かない)理由は?」というアンケート結果をご披露しつつ、"なぜ論文を書くのか"ということに対して考察された。(学術)論文を書くと答えた人の理由は「自分が見つけたことを人に伝えたい」「世界が広がる気がしてうれしい」「自分を磨きたい」etc
… と様々であったが、最終的には「やっぱり面白いから書く!」というところに行き着くようである。しかし"面白い"、つまり趣味として書くとは
いっても、確かに学術論文の投稿は細かいデータまでぬかりなく整理をして、細かい投稿規定にあわせて、査読ではreviewerにいろいろなクレームをつけられて…
そういうことを自らすすんで「面白いからやる」と思える境地に達するまでは簡単な道のりではない。しかしそれは自分自身の気持ち一つのようなところもあり、何かを伝えることによって喜びを感じられるようになると、論文を書くのも楽しくなってくる…
そう富樫先生は述べられた。
■ ご自身のご経験から
今回のセミナーでは富樫先生ご自身のご経験という貴重なお話を拝聴することができたが、先生ご自身の場合、20代の時は自ら論文を書こうor書きたいと思われたことは一度もなく、「学術論文を書くなんて大変なことをする人がいるのねえ」と他人事のように思われていたとのこと。これは筆者にはとても意外であった。研修後、大学院に進まれ、ご自分でpaperを書かなければいけない状況になった時の最初の3年間は大変苦痛でいらしたとのこと(書かなければいけない、でも書けない…)。30過ぎになり、研究を面白いと思わせてくれる指導者の先生に出会えた。あることを知りたい!
そう思ってその先生のところにいくと「それはな、富樫さん」といって教えてくださるが、そのやりとりの間にいつのまにか新しい課題を抱えさせられる。その新しい課題を調べていくうちに、いろいろなことがわかってきて…面白い。そうやっているうちにだんだん知的興味が解決することの快感と、学生の時にテストが終わった時のような開放感を感じるようになった。"academic
radiologyは面白い"と自分に思わせてくれる人…それはどこかにいるはずなので、そういう人に出会うことはとても大切である、とも述べられた。そして先生ご自身は30代後半には、自分の知識(知りえたこと)を人に知らせることは大事なメッセージである、というふうに思うようになった。
そしていまは共通言語としての論文の魅力にとりつかれている、とも話された。
また先生ご自身が十数年前に疑問を感じつつも深く調べなかった症例に2度目に遭遇した時のご経験を語り、きちんと調べて論文を書きevidenceとして残すことの重要性を痛感されたことを話してくださった。稀な例に遭遇した際の頼りはやはり文献であり、それは"たった一例"ではなく"かけがえのない一人"の命である。論文というevidenceを残すことで、より多くの人がその貴重な経験や知識を享受することができる。
■"共通言語"としての論文
国籍、人種、宗教何もかもが違う人同士が、同じ研究テーマに興味があるということだけでとても仲良くなる。非常に近しく感じられ、肌の色も違う人に思わず日本語で話しかけてしまうくらいの親近感を抱いてしまう。これは一種のパスポートみたいなもので、academic
radiologyの楽しみの一つだと思う…そう語られた。
■論文は自分自身を変え、成長させることもできる
学術論文を書くことで、客観的に物事をみるクセがつくようになり、事実と憶測の見極めや多面的な観察ができるようになる。柔軟な物事の考え方を獲得し、以前より我慢強くなることもある。また多彩な価値観を受容するなど価値観の変化をきたすこともある。論文を書くことはある意味では読書と似ているかも…。そして「しんどくても同じ穴の狢に住んでくれる人が1人でも増えないかなあ、と思っている」。富樫先生は最後にそう締めくくられた。
最後に富樫先生が挙げてくださったご推薦図書を参考文献に付記し2)、この項の終わりとしたい。
よい論文の書き方
京都市立病院 早川克己先生
造影剤を中心にexperimentalなpaperも数多く執筆されている早川克己先生が、ご自身の経験をもとに論文の書き方に関するレクチャーをされた。先生はニューヨークのRochester大学留学中にphysiology
が専門である Thomas W Morris先生とuroradiology が専門であるRichard
W Katzberg 先生 に論文の書き方を教わった。
■ 総論
まず大前提として最初の研究計画に力を入れる必要がある。できればprospectiveなrandomized
studyを行うことが望ましい。最初に仮説 (hypothesis)を立て、結果を予測して、必要なNを決定する。この時点でintroductionとsubjects
& methodsは、概略がある程度できているともいえる。
仮説を立てるというプロセスはとても重要であり、十分な時間をかける必要がある。ちなみに早川先生がご留学中に書かれたpaperの"脳血管造影にて血圧低下が生じるのは中枢神経を介する反射的な全身の血管抵抗の減弱が原因である"という仮説は、仮説を立てて実験を始めるまでに約1年を要し、最初の半年間は論文ばかり読んでおられたとのこと。
論文を執筆する際は、原則として書くことはなるべく簡潔にして贅肉はそぎ落とす。書いても書かなくても本質的に関係のない部分は一切書かないくらいのつもりで執筆するのが良い。
subjects & methodsとresults は一切の主観を交えずに事実のみを記述し、推測や解釈は排除する。自分の考えなどが述べられるのはintroductionとdiscussionである。
■ Introduction
この研究をするように至った理由や背景を書く。ここでの文献的考察は必要最小限にとどめ、なぜ仮説を立てるに至ったかの根拠となるような文献のみとする。
次に仮説を述べる。研究の目的を簡素に述べ、prospectiveかretrospectiveか? randomizedかnon-randomizedか?
をはっきりと述べることが大切。
■ Subjects & Methods
結果を導き出すための方法を詳細に記述するが、ここで最も大切なのは"再現性"であり、だれがやってもこの方法で同じ結果がでることが保障されなければならない。そのためにはちょっとした成功のコツや秘訣を隠さないこと。どんなに優れた研究であっても、再現性がなければ後日、評価を落としたり、削除になることもある。
また後述のresultsのみならず、methodsもオリジナルの図やシェーマを効果的に使用すると良い。
■ Results
事実のみを詳細にかつ客観的に記述する。推測や考察、結果に対する弁明や解釈などは一切、書かない。
"良いresultsが得られていれば、それでOK、それ以上は何もしなくていい"という訳ではない。同じresultsでも効果的にうまくそれを示すことが非常に重要で、効果的なプレゼンテーションが極めて大切である。一般に日本人は優れた研究をして良好なresultsが得られればそれで良い、逆にいうとプレゼンテーションの方法など表現方法にあまりこだわらないという風潮があるので、それが評価を落とすことになったりする。日本人はもっと"良いプレゼンテーション"ということにも神経を使うべきであろう。効果的なプレゼンテーションという意味では、直感的に一目瞭然で理解してもらえるような図やシェーマを用いることが大切。
■ Discussion
仮説に対する証明がなされたかどうかが最も大切。よって持って回った言い方をせずに、まずそのことをズバリと書く。この仮説の証明のため、resultsの解釈をいろいろと述べる。discussionでは結果に対する推察や考察を書いても良い。
研究方法の欠点などは必ず記載する。perfectな論文というものは原則として存在しない。
最後にconclusionとして仮説に対して証明されたことを簡素に記載する。
■ その他
統計も論文の中では重要な役割を果たす。できれば研究段階の最初から統計の専門家に相談してstudy designを決定するほうが良い。nativeによる論文の英文校正もなるべくやったほうが良い。
早川先生は歯切れの良い調子でこのように述べられ、その明快なご説明には大変説得力があった。最後に早川先生がご推薦された統計に関する図書(原著とその日本語訳版)を参考文献の項に付記する3)。
書いた論文を点検する
Beth Israel Deaconess Medical Center 幡生寛人先生
せっかく書いた論文なのでアクセプトされるに越したことはない。そのためにも一度書いた自分の論文を最後にもう一度、客観的にきちんと点検することが望ましい。幡生先生は、その点検のポイントについて詳細にお話された。
■ Introduction
まずbackground(背景)を短くしっかりと説明しているかどうかをチェックする。そしてどうしてこの論文を書こうと思ったかというmotivation(動機づけ)、これをしっかりと書く。この「僕はこういうbackgroundがあって、こういうmotivationがあったからこのpaperを書いたんだ」ということがしっかりしていて、reviewerに「この論文を読んでみたい」と思ってもらえば、そのpaperはアクセプトにグッと近づく。
introductionの最後の1〜2文のparagraphはhypothesis(仮説)あるいはobjective(目的)を、あいまいにならない形できちんとstatementする。hypothesisはsubjects
& methods, conclusionとしっかりとマッチしている必要がある。
■ Subjects & Methods
methodsで一番大切なのは、再現性がキチンとしているかどうか。そのpaperの通りにやったら同じ結果が導かれるというのがサイエンスのメッセージなので、methodsはできるだけ簡潔にかつ再現性を保持して書くのが原則。
subjectsは症例のセレクション、すなわちどういう人を対象として選んだのか…retrospectiveなのかprospectiveなのか、consecutiveなのか、などに注意する。
■ Results
Resultsの中にhypothesisやobjectiveをサポートするデータがキチンとあるかどうかをreviewerが判断できるように、全ての必要最低限のデータを、主観を交えずに述べる必要がある。その際、同じデータでも示し方によってわかりやすかったり、わかりにくかったりするので、figureやtableを十分に工夫し、hypothesisに関係したデータが見てスッと頭に入るようなresultsの示し方を工夫する必要がある。
また数や数値の整合性も大切で、subjectsの内訳の数が合っていないなど、整合性がない場合はそのpaper全体が信頼性がないと見なされる。
■ Discussion
first paragraphはmajor results、すなわち最も大事なresultsのsummaryをもってくる。
次にintroductionとの重なりを最小限にしながら、backgroundのsummaryを述べる。
さらにresults1、results2、results3 etc…について、各々をresultsの項と重ねて述べすぎないように注意しながら、各々のresultsのdiscussionを行う。
終わりから2つ目のparagraphはこの論文の問題点、例えば自分が方法論として問題だと思うことやlimitationなどを述べる(このlimitationは通常、数個以内にすべきで、10個も20個もあるようであれば論文としては未完成で、世に出せる状態ではないといえる)。
最後のparagraphはconclusionで締めくくる。hypothesisでは、"AだからBである"と仮説を立てたにも拘わらず、書いているうちにだんだん感情が入って文章がシフトし、いつのまにかconclusionが"CだからDである"となっていることがあるが、これでは科学論文としては失格である。"AだからBである"のhypothesisの場合、conclusionは"AだからBである"か"AだからBだと思ったらCだった"のどちらかしかありえない。そしてそのconclusionはresultsできちっとサポートされること。resultsにないようなことを結論としてdiscussionで述べているようなpaperは不正確とみなされ、アクセプトされにくい。逆にresultsが十分でない場合はconclusionでいう内容を削って、resultsより導ける範囲におさえなければいけない。
今回のpaperではresultsから直接には導かれなくても、今回の結果がどういう意味を持ちえるのか、どういうことが予想されるのか、ということを述べる場合は、resultsから導き出されたconclusionとは全く別にして(まぎらわしい言い方は避けて)future
directionという形で述べる。しかもそれは原則としてone sentenceにとどめる。
introductionの最後のhypothesis/objectiveの部分と、discussionの一番最初のmajor
resultsの部分と最後のparagraphのconclusion… この3つがピッタリと一致しているのが整合性のある論文である。
以上のような点に留意して自分で書いた論文を点検すると良い。
全てを極めて理路整然と語られる幡生先生のお話は、筆者には驚きであった。人生において"もし〜なら"という例えはタブーかもしれないが、もし私がこの幡生先生のお話を卒後5年以内に聞いていたとしたら、自分の人生ももっと変わっていたかもしれない…そういう思いが頭をかすめた。
効果的なpresentationの方法
東京大学医科学研究所 南 学先生
南先生はoralでのpresentationにおける効果的な方法を中心にお話をいただいた。そのポイントは"7つのP"に集約され、7つのPを"C字型"に並べ、challengeのCであるというsymbolicなスライドを示された。以下その7つのPについて述べる。
■ Purpose:発表の目的
何のために発表を行うのか? 何を発表したいのか? そのmotivationをしっかりしておく必要がある。
■ Preparation:材料集め
できる限り早い時点で、かつできる限り多くの材料を集めておくことが重要である。
■ Planning:計画
どのようにしたら効果的に自分の言いたいことが伝わるかを工夫する。南先生が独自にやられている方法を例として、大事なことを概略のみ走り書きしたカード(あるいはスライド)を作って、何度も並び替えて効果的な発表の順番を考える、というのを紹介してくださった。また一度、自分の作ったスライドを会場の後ろくらいの距離から見て、字がきちんとよく見えるかどうかを確かめることも重要だと述べられた。
■ Presentation Material:発表スライド作成
まずは与えられた発表時間に対して多くの枚数のスライドを作りすぎないことが大切(30秒以下の短い時間しか呈示しないスライドは、見ている人からするとかなり忙しくてわかりづらい)。口頭発表の分量は、1分間で日本語350字、英語100words以下が目安。
■ Practice:練習
Oral presentationの練習方法にはいろいろあるが、南先生が紹介してくださった方法は、いったん出来上がった原稿を自分でテープに吹き込んで、しゃべりやすいかどうか、聴いていてわかりやすいかどうかを確認するというものである。そうやって最終的に出来上がった原稿もテープで聴きながらそれに合わせてしゃべり(shadowing)、presentationの練習をする。
専門の違う放射線科医(例えば腹部の発表なら神経放射線科医)に聴いてもらい、内容がわかるかなどの意見を求めるのも効果的である。
英語の発表は発音よりも抑揚やアクセントが大切、そして強調したい時には間合いをうまくおくことも重要。
"一に練習、二に練習!"。アメリカ人は発表前に何十回も練習するが、南先生もご自分の英語の発表の前には30回くらい練習されるとのこと。
■ Publication:論文作成
"Publish, or Perish!!"(論文を書け、さもなくば消え去れ、すなわちacademic
positionから出て行くことになるぞ)という諺に代表されるように、論文を書くことはとても大切である。論文の投稿は早ければ早いほど良く、口頭発表の前に投稿を済ませておくのが理想である…そのほうが口頭発表もうまくいき、質問にも自信を持って答えられる(しかしこれがもっとも難しい)。
口頭発表後も"あの発表はもう論文に書いたか?"と自分を叱咤激励してくれる人を周りに見つけておくことが重要。
■ Praise:賞賛とご褒美
良い学会発表をしたことに対して賞賛やご褒美があることにより、次にまた良い発表をするぞというmotivationが高まる。良い発表に対する拍手、上司から褒められる、原稿依頼や講演依頼がくる
etc… などの賞賛やご褒美を励みにする(自分を褒めてあげるのもよし)。
南先生らしい、クリアーカットでユーモラスなお話しぶりに会場の雰囲気が和らいだ。"効果的なpresentation"を身をもって示されているのだ…
筆者はそう実感した。
Academic Radiology における喜びとは?
ゲストパネリスト 神戸大学 杉村和朗先生
モデレーター Beth Israel Deaconess Medical Center
幡生寛人先生・西野水季先生
establishされたacademic radiologistをゲストに迎え、モデレーターがインタビューをしながら様々なお話を伺っていくというコーナーで、ゲストパネリストとして神戸大学の杉村和朗教授をお迎えし、幡生寛人先生と西野水季先生のインタビューでお話が進められた。本来ならば杉村先生とさしでお酒を飲みながらでないと聞かせていただけないような貴重なお話をたくさん、聞かせていただき、会場には和やかなムードが流れた。
杉村教授が学生の時に西宮の中央市民病院に実習に行かれ、その時に病院長をしておられた元阪大教授の立入先生との出会い…この出会いが放射線科に入るきっかけになった。昭和57年、MRIとの出会い…対象を内膜症と骨転移に絞られた、そして自著論文としてはじめてのRadiologyへの掲載。ご自分で興味を持たれ、オリジナリティを持って学会発表などをされていた内容が別の施設からAJRにpublishされてしまったという悔しい思い出…やはり論文は書かなければいけないのだということを痛感された。UCSFのHricak先生のところに留学された時のエピソード…
淡々と語られる杉村先生の表情はとても穏やかで輝いて見えた。
今回のISYAに参加された若手の先生方へのメッセージとして、まず最初に"自分の好きなものを見つけること"それがとっても大切だということを述べられた。自分の好きなものを見つけ、出会うことがacademic
radiologyへの重要な入り口となる。そういう自分の好きなものに出会うチャンスはだれにも一度はあるものなので、そのチャンスをのがさないように…"好きこそ物の上手なれ"で、その分野に詳しくなると他の人からもいろいろと質問され頼りにされるようになって、もっと好きに、得意になっていく。だからその人が何に向いているのか、何が好きそうかを見つけて手助けをするのも上司の大事な役割じゃないかと思う、と杉村先生は話されていた。
「若手の先生へのメッセージで"自分の好きなものを見つけること"以外にあと2つ挙げるとすると、どんなことですか?」。モデレーターである幡生先生からの問いかけに杉村先生は以下の2つのことを述べられた。1つには"自分を活かしてくれる上司を見つけること"。自分からそれを見つけにいくのはある意味では難しいかもしれないが、いつも自分を叱咤激励してくれる(「さっき発表していた時に原稿をみていたね」「あの発表はまだ論文にしていないの?」etc…といってくれる)ような上司を見つけることがacademic
radiologistとして成長していく上ではとても大切である。その人はかならずしも自分の施設のトップの人でなくてもよいし、ある意味では同じ職場でなくてもよい。杉村先生にとっては外から応援してくださった板井先生がそれにあたる、と話された。また自分がそうやって教えてもらった大切なことは、大事なメッセージとして後進にも伝えていきたい、とも述べられた。幡生先生からの問いに対するもう1つのお答えは"根気よく1つのことをやっていくこと"。特に画像診断の場合は、あちこちで花火が上がるとついそちらの方が面白そうに見えて目移りしてしまうこともあるが、とにかく自分のライフワークとなりそうなものを見つけて、その1つのことを根気よくやることが大切、そのためにも先ほどいった自分が本当に好きなものを見つけることが重要だ、と話された。
「楽しかった思い出をお聞かせください」の問いには、思い出の1つとして、島根医大の教授時代にたくさんの人が放射線科に入局してくれて、若い先生たちとマンツーマンで接し、彼らと一緒にRSNAに演題を出して、論文をかいてetc…というのが達成感もあって楽しい思い出だと話された。また「academic
radiologistとして幸せだと思ったことは?」の問いには、Radiologyなどにアクセプトされた時の達成感、RSNAでArie
Crown Theaterで講演をされた時などの思い出を話された。モデレーターの幡生先生が同じ質問を富樫先生にされ、富樫先生は特に最近数年間での思い出として、子宮蠕動という従来なかった新しい概念に気付いて、医局の先生と一緒にRadiologyにpaperを書いたことを挙げられた。また同時に富樫先生から若手の先生へのメッセージとして、自分の中にでてきた疑問を忘れずにずっと持っておくこと…それは論文を書く上での大切なモチベーションになる。わからないことをごまかして曖昧にするのでなく徹底的に調べ、それでもわからないものは忘れないでいつか解決するということで"わからないもの"というフォルダにキチンと入れておくことが大切だと述べられた。
杉村先生が最後のほうに述べられた内容も筆者には大変、印象が深かった…悪い環境の中で努力するというのも大切である。悪い環境から逃げ出すのは簡単だが、その環境の中で逃げ出さずに自分の周囲を少しずつ良くするよう努力するという姿勢も必要である。このことは留学した時にも大切になってくる。悪い環境に負けないで、むしろそれをバネにして頑張れるように…。さらにこれはあるドクターから聞いた話だが、と前置きして以下のように続けられた。若い人はどういうオーベンにつくか…最低のケースは
利(利益)のあるオーベンにつく、普通のケースは理性(知識)につく、そして最高のケースというのは…怒りのあるオーベンにつく、つまり自分に怒りを仕向けてくれるようなオーベンが実は最もいいオーベンなんだよと、手取り足取り教えてくれて良い環境を整えてくれるオーベンもいいが、恵まれた国の力がだんだん落ちてくるように、あまりに恵まれた環境を与えられて至れり尽せりというのはむしろ本人の力が落ちてくる。だから"何クソォ"と思わせるようなオーベンが良いオーベンだと。悪い上司にあたった時も諦めたりヤケクソにならないで、そういう修行だと思って頑張ること…。この杉村先生の逆説的な言い方が大変impressiveであったと同時に、筆者がかつて大学の同門会の雑誌か何かで聞いた言葉が頭の中でハイパーリンクした。確かどなたかの教授就任の挨拶だったと記憶しているが"三流の教授は地位(や名声)を求める、二流の教授は業績を求める、一流の教授は人を育てる"という言葉である。直接には違うことを言っているのだが、どこか似ているなあ、とフッと思った。
参加者からは杉村先生や講師の先生方への活発な質問が出て、和やかな中にもピンと張りつめた空気の中で会は進行した。このISYAに参加された若手の先生方の印象記や幡生先生、杉村先生らのコメントがJCRニュ−スに掲載されている4)。素晴らしい内容であり是非ご一読をお勧めしたい。
筆者も卒後10年以内は学術論文を書くぞという闘志にあふれ、英文ジャーナルにpublishされたpaperがMosbyのYear
Bookに掲載されたこともあった。でも時とともに忙しさも手伝ってだんだんとpaperを書かなくなり、"書く時間がない、学会発表だけで精一杯"とか"paperを書くのも一つの世間へのアピールだが、アピールの方法は他にもあるはず、自分は座談会や雑誌の企画とか、そういう別の形で世間にアピールするからそれでいいのだ"といった形で自己弁護しながら変に正当化し、5〜6年前までは"あの発表はもう論文にしました?"と言ってくれていた人も国際学会で賞などをもらったりするうちに、そういうこともだんだん言われなくなって…そうやって言い訳や自己弁護がたまっていた自分の中のクリップボードの"ゴミ"が、今回のISYAセミナーで再起動されて全てなくなった感じだ。明日からまた研修医に戻ったつもりで一から、academic
radiologistに向かって再スタートしてみたい…そんな気持ちにさせてくれるセミナーであった。身が引き締まる思いと同時に、これまでの普通の学会やセミナーでは得られなかった"かけがえのない何か"を感じたことは確かだ。本誌(Rad
Fan)の取材のためオブザーバとして参加させていただいたのとは全く別に、一人の放射線科医としてこの日本人のための日本人による第1回のISYAという記念すべき歴史的瞬間に立ち会えたことを大変、光栄に感じている。最後にこのセミナーの企画や準備にご努力されたBeth
Israel Deaconess Medical Centerの幡生寛人先生、西野水季先生、講師の富樫かおり先生、早川克己先生、南 学先生、ゲストパネリストの杉村和朗先生はじめ関係者の方々に心より御礼を申し上げると同時に、来年以降もこのような大変有意義なセミナーが開催されることを切望しつつISYAレポートの終わりとしたい。
<文献>
1)西野水季: Introduction to Research for International Young
Academics(IRIYA)に参加して. How to Enjoy RSNA 2003, P26-27
(Seminar in Chicagoの冊子)
2)酒井聡樹:これから論文を書く若者のために、共立出版、(富樫先生ご推薦図書).
3)Statistics: A biomedical Introduction by Byron Wm.
Brown Jr. and Myles Hollander, John Wiley & Sons (早川先生ご推薦図書)
*上記図書の日本語訳:医学統計ライブラリー:医学統計解析入門、医学統計研究会訳、株式会社MPC
4)西野水季ほか:Introductory Seminar for Young Academics 開催記.
JCRニュ−スNo.138, pp22-23, 2004(日本放射線科専門医会・医会誌)
RSNA会期中は日本人参加者のために例年、Seminar in Chicagoというセミナーが開催されている。群馬大学の遠藤啓吾教授、山口大学の松永尚文教授、IVRコンサルタンンツの林
信成先生、ハーバード大学Beth Israel Deaconess Medical Centerの幡生寛人先生、University
of PennsylvaniaのRobert M Steiner先生、Warren B Gefter先生らがadvisory
boardを務めるもので、過去の Seminar in Chicagoでの素晴らしいレクチャーをまとめたHow
to Enjoy RSNAという冊子が主催者であるタイコ ヘルスケア ジャパン?から発刊されている。例年、前半はフィルムリーディング、後半はレクチャーという構成になっており、今年はフィルムリーディングが胸部領域、レクチャーはStanley
S Siegelman先生の"How to write a paper that will be accepted
for publication"というお話であった。
フィルムリーディング "胸部領域"
chairpersonにBeth Israel Deaconess Medical Centerの幡生寛人先生、西野水季先生、discussantにSungkyunkwan
UniversityのKyung Soo Lee 先生、University of PennsylvaniaのWarren
B Gefter先生をお迎えして胸部領域のフィルムリーディングが行われた。日常診療ではなかなかお目にかかれない大変珍しい症例のオンパレードで、discussantの先生方の素晴らしいディスカッションに驚きながらも探究心と向学心をくすぐられているうちに、アッという間に時間が経ってしまった。いつも楽しい時間は瞬く間に過ぎてしまうものだ。昼間にMc
Cormick Placeで充実した時間を過ごし、さらに夜は日本人の先生方となつかしい顔を合わせながらこのような充実したフィルムリーディングを堪能できるのは誠に素晴らしい。ちなみに過去のSeminar
in Chicagoでは、2002年に骨軟部、2000年に腹部、1999年に頭頚部のフィルムリーディングがそれぞれ行われている。
レクチャー
"How to write a paper that will be accepted for publication"
Radiologyの編集長を長年務められたStanley S. Siegelman先生が"How to
write a paper that will be accepted for publication"という話をされ、大変素晴らしい内容であった。Chairpersonのお一人である松永尚文教授がSiegelman先生をご紹介された後、Siegelman先生は最初に故板井悠二教授との思い出を語られた。Siegelman先生がCTでの肝血管腫の特異的なエンハンスパターンに気付き、1980年にそのpaperをpublishしたところ、驚くべきことに同じ年に同じ内容のpaperを書いた放射線科医がいた。"自
分と全く同じ興味を持ち、同じ観察を同じ時期にやっていた放射線科医がいたなんて…"、そうSiegelman先生は驚かれたそうだ。その放射線科医が板井教授で、そこからSiegelman先生と板井先生とのお付き合いがはじまり、いろんな学会で顔を合わせるようになって親しくなった。まさしくISYAで富樫かおり先生が言われた「academic
radiologyに国境はない…論文を書くことは一種のパスポートで、同じことに興味があるというだけで人種を超えた親近感を感じて友人になる」ということが世界のトップと日本のトップの放射線科医の間でなされていたのだ。
そしてSiegelman先生の"論文の書き方"に関するお話が始まった。「どんなに美しい流暢な英語で書かれたpaperでも、教育的な部分が何もなく放射線医学も進歩させないようなpaperはアクセプトされない」…冒頭のこのSiegelman先生の言葉は私にはとても印象的であった。そしてそのためには"論文を書き始めるまでのpreparationがとても大切である"ということをSiegelman先生は強調された。これはISYAにて早川先生が"paperを書き始めるまでに1年かかった、最初の半年はひたすら論文ばかり読んでいた"とおっしゃっていたのと正に一致する。
また"論文のボリュームはその内容に応じた分量でconciseでなければいけない"ということを先生が実際に遭遇された実例を挙げて述べられた。かつてSiegelman先生はお知り合いの先生からこう言われことがあった「私のところの優秀なレジデントが、莫大な時間とエネルギーを費やして、はじめての論文を私との共著という形で投稿したんですが、そのpaperがrejectされて大変ガッカリしています」と…Siegelman先生は答えた「その論文は覚えていますよ。私が読みました。症例報告でしたが、原稿は15ページにわたり、図表は9枚、参考文献は44件(筆者注:State-of-the
Artなみの論文ボリューム)も挙げられていましね。確かに徹底的に研究され良く頑張られていました。でも症例報告としては"too
much"でしたね」と…。
また良いpaperは一連の流れがとてもスムーズである(「The good paper tends to
flow smoothly」と述べられていた)。introductionがクリアーカットにスッと入り、subjects
& methodsがA,B,C…そしてresultsが結果A, 結果B, 結果C…さらにdiscussionでは結果Aをdiscuss,結果Bをdiscuss,結果Cをdiscussして最後にconclusion。そうやってテンポ良く流れ、目を通すreviewerにも心地良い…そしてこれらの間には整合性がしっかりあると。まさに幡生先生や早川先生がISYAで述べられたのと同じである。
それ以外にもpopulationを選択する時はconsecutive caseとするなどの注意点や、論文の中では(例えどんなにその論文に熱い思いがあったとしても)記述が客観的で冷静であること、用語や数字が正確であること、良いpaperを書くには"good
idea"の存在が必要不可欠であるなど、たくさんの含蓄のある内容を話された。その講演内容の詳細は、新しく発刊される"How
to enjoy RSNA 2004"に本誌(Rad Fan)編集委員でもあられる林 信成先生により本講演の全文訳が掲載される予定です。乞うご期待ください。
ちなみに以前のSeminar in Chicagoでは、2002年が東海大学の高原太郎先生による"How
to handle PC presentation in RSNA"、2000年がWalter Reed
Army Medical CenterのJong-Ho R Choi先生による"How to create
an effective scientific exhibit"、1999年がMedical College
of WisconsinのLawrence R Goodman先生による"How to get the
abstract accepted for RSNA"というレクチャーがそれぞれなされている。
Seminar in Chicagoはその洗練されたフィルムリーディングの呈示症例とディスカッション、そして飛びっきりホットな内容の講演、どれをとっても格段にレベルが高く、ある意味では日本人にとって(世界の超一流の先生方の講演を、日本人向けにアレンジした形で身近に聞けるという意味でも)McCormick
PlaceでのRSNAを超えているといっても過言ではない。このセミナーの開催にご尽力いただいているadvisory
boardの先生方、主催者であるタイコ ヘルスケア ジャパン?をはじめ関係者の方々に末永くこのセミナーを続けていただくことをお願いしつつこのレポートの終わりとしたい。
日本赤十字社医療センター 放射線科 扇 和之