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NEWS 2006.12.7
スポンゼルの血管内使用について
済生会滋賀県病院 放射線科 勝盛哲也
2006年10月、ゼラチンスポンジであるスポンゼル(アステラス製薬株式会社、東京)の添付文書に「血管内使用禁忌」という項目が追加されました。これは、日本のIVR(Interventional Radiology)のみならず、日本の今日の医療に関わる重大な問題と考えられますので、意見を述べたいと思います。
ゼラチンスポンジは、1940年代に外科的処置の止血目的に開発され、今日まで安全で有効な医療物質として医療の各分野で使用されています。カテ−テルを通じての血管内投与は、1970年代より今日まで、安全で有効な塞栓物質として、出血性病変、血管病変、悪性腫瘍などに対して動脈を塞栓するために使用され、世界中の医療に貢献してきました1-7)。この安全で有効な治療法は、放射線科医のみならず、カテ−テル治療を行う内科医、外科医、救急医にとっても、今日、必須の治療法として確立しています1-7)。PubMedで、“gelatin
sponge” と“embolization”のkey wordsで検索すると、2006年11月現在、800編以上の英文論文が発表されています。
スポンゼルの「血管内使用禁忌」の発表に関しまして、これを塞栓物質としてカテーテル治療(動脈塞栓術)を行っている医師として、下記のような幾つかの疑問点があります。
- 35年以上の歴史のある塞栓物質に対して、どのような理由から「血管内使用禁忌」とされたのでしょうか。禁忌とした科学的根拠はあるのでしょうか。アステラス製薬株式会社の「使用上の注意改訂のお知らせ」には、改訂理由として「組織壊死等の有害事象が集積されたこと」と記載されていますが、その科学的根拠となる参考文献は引用されていません。このため、PubMedでpeer-reviewのある英文論文を検索しましたが、「ゼラチンスポンジ細片は血管内に使用すべきでない」と結論を下したpeer-review英文論文は、検索範囲では認められませんでした。
- ゼラチンスポンジが「血管内使用禁忌」であったならば、なぜ35年以上の長期に渡って、その使用が可能であったのでしょうか。本邦での動脈塞栓術は、その多くがゼラチンスポンジ細片を用いて行われてきました2-6)。さらに数多くの公的・私的な動脈塞栓術の研究では、ゼラチンスポンジ細片が塞栓物質に使用され、その結果、今日、有効で安全な治療法として確立されています2-6)。
- ゼラチンスポンジが「血管内使用禁忌」のために医師が使用出来ないとなれば、日常診療で出血性病変、血管病変、腫瘍などの数多くの患者に、動脈塞栓術を施行できなくなることを容認することになります5-7)。これは、生命の危機に瀕している癌患者や、大量出血を来たしている救急患者に対して、有効な治療法を提供することを閉ざして、見殺しにしてしまうことを意味しています。これは、倫理的に、道義的に許されることでしょうか。
- 2006年8月に、同じアステラス製薬株式会社が創製・開発したジェルパー
トという球状のゼラチンスポンジ粒子が、日本化薬株式会社(東京)から発売されました。しかし適応疾患は肝細胞癌のみで、他の数多くの疾患には適応外です。さらに同じゼラチンスポンジという物質であっても、ジェルパートはスポンゼルと製造過程が異なり、性状と形状が異なるため、歴史のあるスポンゼルと同等の治療効果が得られる保証は何処にもありません。素材は同じであっても、両者は似て非なるものです。ジェルパートは、現時点では、肝細胞癌以外の疾患に対しては未知の塞栓物質です。
- ほぼ同時期に、安価なスポンゼルが「血管内使用禁忌」となり、高価なジェルパートが「肝細胞癌だけに血管内使用可」となりましたが、両者に何かの関連性はあるのでしょうか。高価な医療物質を使用することは、本邦の医療費をさらに高騰させるばかりか、患者負担も増加させる結果にもなります。
我々は、様々な疾患に対する動脈塞栓術を行うにあたって、スポンゼルが安全で有効な塞栓物質であるという科学的根拠を数多く持っています。院内や救急外来で動脈塞栓術を必要とする患者は、日々あらゆる医療機関で数多くいます。医師は、患者を見殺しにすることは倫理的に、道義的に出来ません。スポンゼルを用いた動脈塞栓術で救える患者がいる限り、医師の責任のもとで、この有効で安全な治療を続けていくのは、医師に課せられた使命と考えます。
<参考文献>
- Gold RE et al. Gelfoam embolization of the left gastric artery for
bleeding ulcer: experimental considerations. Radiology 116(3): 575-580,
1975
- Yamada R et al. Hepatic artery embolization in 120 patients with
unresectable hepatoma. Radiology 148(2): 397-401, 1983
- Nakamura H et al. Transcatheter oily chemoembolization of hepatocellular
carcinoma. Radiology 170(3 Pt 1): 783-786, 1989
- Matsui O et al. Small hepatocellular carcinoma: treatment with
subsegmental transcatheter arterial embolization. Radiology 188(1): 79-83,
1993
- Oguni T et al. Superselective embolisation for intractable idiopathic
epistaxis. Br J Radio. 73(875): 1148-53, 2000
- Yamashita Y et al. Transcatheter arterial embolization in the management
of postpartum hemorrhage due to genital tract injury. Obestet Gynecol
77(1): 160-163, 1991
- Jander HP et al. Transcatheter gelfoam embolization in abdominal,
retroperitoneal, and pelvic hemorrhage. Radiology 136(2): 337-344, 1980
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