チェルノブイリ原発事故による健康影響

2012.12.19

チェルノブイリ原発事故による健康影響
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科国際保健医療福祉学研究分野
高村 昇

1986年4月26日にソ連(現在はウクライナ)において発生したチェルノブイリ原発事故では、ヨウ素131などの放射性ヨウ素やセシウム137、セシウム134などの放射性セシウムを中心とした放射性物質が大気中に放出された。当時のソ連政府は食物の流通制限、摂取制限を行わなかったため、汚染された牛乳や野菜、水などの摂取によって、特にヨウ素131が食物連鎖の中でヒトの甲状腺に集積し、内部被ばくを引き起こした。その結果、事故当時の年齢が15歳未満の児童における甲状腺がんが激増したことが示され、事故から26年が経過した現在、その好発年齢は20代中盤以降の青年〜中年層に移行しつつある。その一方、白血病や甲状腺がん以外の固形がん、良性疾患、さらには遺伝的影響や胎児に対する影響については現時点で周辺住民において科学的証明はなされていないが、事故によって直接的な放射線被ばくによる健康影響以上に大きな社会的不安、精神的なダメージを与えたと考えられている。本稿ではチェルノブイリ原発事故による健康影響を概説しながら、現時点での福島第一原発事故との類似点、相違点もあわせて考察する。

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